レポート

「声の仕事がしたい!」
視覚障害者の夢を広げるナレーション事務所「みみよみ」

下の2つのグラフを見てほしい。

左は、視覚障害者(重度)の就職先(※1)、右は視覚障害者の就業収入月額(※2)を表したものだ。ここから読み取れるのは、視覚障害者は、職業選択の幅も限られており、収入も一定以下に留まっている現状である。
この現状を変えようと行動を起こしたのが、合同会社ゆるり代表、荒牧友佳理さんだ。2020年6月に視覚障害者に特化したナレーション事務所「みみよみ」を立ち上げ、日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ(SCM)の3期にも参加した。
荒牧さんは視覚障害者を取り巻く状況をどう捉え、どのような課題解決を目指しているのだろうか。「みみよみ」所属ナレーターとして活躍する北村直也さんとともに、これまでの歩みと展望を伺った。

※1:厚生労働省が社会福祉法人日本視覚障害者団体連合に提供した「平成30年度におけるハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」よりグラフを作成

※2:厚生労働省 「平成18年身体障害児・者実態調査結果」データをもとに作成

視覚障害者も「得意」を仕事にできるように

荒牧:視覚障害者の方々の言葉は、ひとつひとつが丁寧で、とてもきれいに感じるんです。“ちゃんと伝えよう”という心がこもっていて、こちらのニュアンスも聞き取ってくれる。この、目が見えないからこそ磨かれたのであろう「聞く」「話す」という能力を生かして、「目が見えなくてもできる仕事」ではなく、「目が見えないからこそ得意な仕事」を提供する場ができたらいいな、と考えました。そうして立ち上げたサービスが「みみよみ」です。

みみよみ

視覚に障害のあるナレーターが活躍できる、日本初のナレーションプラットフォーム。 視覚障害者なら無料で受講できるナレーター育成コースも提供し、雇用の機会を広げている。
「福祉」の枠を超え、視覚障害者特有の“聴覚の鋭さ”を活かした高品質なナレーションを提供し、日本中を視覚障害者ナレーターの声で満たすことを目指す。

荒牧さんは、両親が全盲の家庭で育った。人から「かわいそう」と言われることもあり、幼いころはコンプレックスに感じていたこともあったという。

荒牧:でも、高校生の頃、自宅のバーベキューパーティーに友だちを招待したとき、その友だちが、「家族の仲がよくて、にぎやかで、うらやましい」って言ってくれて。そのとき、自分がいかに恵まれているか気がつきました。両親が五体満足かどうかと、家庭が幸せかどうかは関係ないのだなと。いまは、底抜けに明るい全盲の両親に育てられて、ラッキーだったなと思っています。

賑やかな家族と。写真中央が、「みみよみ」を運営する荒牧友佳理さん。

「視覚障害者の仕事が限定されている」という違和感

ただ、両親の職業にはずっと疑問を感じていた。

荒牧:両親も視覚障害のある友人の親も、多くは鍼灸師やマッサージ師。なぜ、みんな同じ仕事なんだろう? もっとできることがたくさんあるはずなのに、と思っていました。

そこで視覚障害者の働き方について調べると、視覚障害のある労働者の過半数が、「あん摩・はり・きゅう(灸)」いわゆる「あはき業」に就いていると知りました。昔から「視覚障害者の仕事といえば、あはき業」と考えられてきたようなのですが、テクノロジーが発達した現在、それもおかしいだろうと思うんです。

しかも、コロナ禍によって、ヘルスキーパー(企業内理療師)として働いていた視覚障害者が自宅待機や退職を余儀なくされました。最近では無資格のクイックマッサージ店なども増えていて、競争が激化しています。このままではどうなってしまうんだろう。何かできることはないか。そう考えていたとき、思いついたのが「ナレーション」でした。
盲学校では、声がかっこいい(かわいい)子がモテるんです。ですよね?

北村:そうですね(笑)。まさに。

転換点となった、ナレーター・北村さんとの出会い

SCM 第3期デモデイの様子

最初は、「読み聞かせアプリ」のようなサービスの提供を考えていたが、SCMで学んだことにより、その考えが大きく変わったという。

荒牧:みみよみを立ち上げたものの、どう事業を展開していいのかわからず……。悩んでいたとき、知人からSCMのことを教えてもらい、2020年秋にスタートした第3期に参加しました。社会起業とは何か、どのように事業を拡大させるのかなどを学ぶうちに、目標をもっと高いところに置きたいと考えるようになったんです。

そんななか、並行して北村さんとの出会いがありました。北村さんは、自身の「声」の才能を生かし、声優として精力的に活動されていましたが、「営業活動」や「事務作業」などに苦戦されてもいました。ならば、みみよみが企業と彼らを結ぶ「橋」となり、視覚障害者の才能を世の中にもっと広く伝え、視覚障害者に対する社会の捉え方を変えることができるのではないか。そう考え、一気に「視覚障害者が活躍できるナレーションプラットフォーム」という事業の方向性が定まりました。三輪車からハーレーに乗り換えたような気分でした(笑)。

みみよみには、現在、養成中も含めて20名ほどのナレーターが所属しており、電話の自動応答メッセージや電子書籍、広告宣伝カーの音声などの仕事を請け負っている。

その主力ナレーターの一人が北村さんだ。先天的に眼球が小さい病気で全盲となり、以前は少し光を感じることができたが、いまはほとんど真っ暗な状態だという。

北村:アニメが好きで、小学生の頃から「演じること」に興味を持っていました。高校3年生のときにラジオ局が主催する声優養成講座に参加。それがとにかく楽しくて。いつかまた挑戦してみたいなと思い、筑波技術大学でITを学びつつ、4年生のときには声優の養成所に通っていました。

ただ、現実は厳しく…。数十社の声優・ナレーション事務所が審査をするオーディションに参加することはできましたが、どこからも声がかかりませんでした。オーディションのあとも電話やメールで何社にも売り込んで、ようやくアコルトというプロダクションに興味を持ってもらえて。ただ、当時の私の技術では今すぐ現場に出られる状態ではなかったので、IT企業にエンジニアとして働きながらレッスンを受けていました。その後体調を崩したこともありIT企業を退職。それを機に自由になった時間を利用して早く現場に出られるようになろうと、声優を目指すギアを上げることとなりました。それが2018年の春です。今は、アコルトとみみよみの2社と提携して活動しています。

北村さんのサンプル音声「特番ナレーション」


北村:みみよみとの出会いは、YouTubeにアップしていた動画を観た荒牧さんにツイッターで声をかけてもらったのがきっかけです。「声と演技だけの実力で選んで欲しい」という思いがあったので、それまではツイッターでのみ視覚障害者であることを公表していたのですが、みみよみに所属してからは、視覚障害者としての露出が増えています。


荒牧:注目されて声がかかれば、実力は自ずと評価されますし、待っているだけじゃ本当にもったいない才能です。何より北村さんが活躍することで、次に続く人が生まれて欲しいと思っています。

わかりやすい価格設定と高いクオリティ

北村さんの点字ディスプレー。

みみよみでは、基本的にナレーターの自宅で録音する「宅録」方式をとっている。文字数と制作日数による一律料金で、顧客からもわかりやすいと好評だ。価格は業界の一般的な相場で設定されている。

荒牧:ビジネスをグロースさせるためにも、みみよみの仕事は、「リモート」で完結することが大事だと考えています。北村さんは収録から編集まで一人で担当しているんです。

北村:メールで受け取った原稿を、「点字ディスプレー」を使って読み込みます。点字を読みやすいように整え、練習を終えたら、防音ボックスの中で収録。ノイズ除去などのデータ編集が完了したら、メールで納品という流れです。留守番電話のメッセージなど、数百字程度の原稿であれば、受注から半日程度で納品しています。

荒牧:嬉しい悩みは、クオリティが高すぎて「本当に視覚障害者の方が吹き込んでいるの?」と、クライアントから信じてもらえないことです。一人でナレーションもできて編集も行う、そんな視覚障害者の方が本当にいるのかと驚かれます。

事業アイデアへの共感で広がるクライアント

多くのサービス利用者から、満足の声が届いている。東京都世田谷区の「砧ゆり眼科」の中山百合医師は、新聞でみみよみのことを知り、診療時間外にかかってきた電話への自動応答メッセージを依頼。「クリアな音声で聞き取りやすく、期待以上の品質だった」と太鼓判を押す。

「プロのナレーターは高額なイメージもあって、依頼を考えたこともありませんでした。でも、みみよみさんの留守電話アナウンスプランはお手頃だったこと、何より事業のアイデアが素晴らしいと感じ、利用しました。留守番電話の応答はスタッフが吹き込むことが多いものですが、プロの方の声による応答は、印象や安心感が違います。

いま、テクノロジーにより、視覚障害者の世界は劇的に変わっています。スマホのカメラ機能を使って夜の外出が楽になった夜盲症の方、タブレット端末で教科書の文字を自分が読みやすい大きさと色合いに調整して勉強できるようになった、色覚異常も合併した視覚障害の子など。みみよみさんのチャレンジも、変化を促す一歩だと思います。視覚障害者の方々が能力を発揮しやすい世の中に変わりつつあることを、ひとりの眼科臨床医として喜んでいます」(中山さん)

ナレーションに留まらない、視覚障害者の活躍の可能性

「視覚障害者の強みをさらに活かすには、まだまだ課題も多い」と荒牧さんは話す。

荒牧:視覚障害者の方々が、十分な収入を得られる環境を作りたい。最近はメディアの取材も増えて、少しずつ依頼も増加してきましたが、まだまだ足りない。北村さんのように技術があって、1人で収録から編集までこなせるナレーターも少ない。若いナレーターを育てながら、広報活動にも力を入れていきたいと思います。まずは北村さんに大スターになってもらいたいですね。

事業の幅も広げていきたいと考えています。いま進めているのは「コーチング」事業の展開です。視覚障害者の方は、会話から相手の心の機微を読み取ることが得意。コーチングの資格を取ることで、オンラインで企業の人材開発をサポートすることができると考えています。

実際に会って話す機会が増えれば、視覚障害者に対する企業側の理解も進んで、雇用促進につながるはずです。長い間、視覚障害者の方と接してきて私が思うのは、視覚障害者の方々は、皆さんが思う以上に何でもできるということ。私、いつも北村さんが目が見えないことを忘れてしまうんですよ(笑)。

北村:(笑)。

いま、視覚障害者の中には、写真を撮ってみたいという人がけっこういるんです。テクノロジーの進歩が目覚ましくて、撮影した写真を立体的に印刷する技術などができています。そういうものを使えば、視覚障害者でも写真が撮れます。目が見えないから、という理由で諦める必要はない。自分ひとりの力では難しいけれど、みみよみ以外にも、各地の盲学校、支援団体の力も借りながら、視覚障害者が夢をかなえられる社会にしていきたいと思っています。

荒牧:本当に!視覚障害者の方の「これやりたい!」「こう働きたい!」を一緒に実現していって、もっと視覚障害者の方の可能性を社会に伝えていきたいです。
「社会課題の解決をめざして起業するって、大変?」と聞かれることもあるんですが、全然そんなふうには感じません。たしかに資金繰りとかでちょっと頭を悩ますこともありますけど、好きでやっていることですから。地道に、諦めずに継続していけば、道は開けると信じています。



荒牧 友佳理

全盲の両親の元、三姉妹の長女として生まれる。南アフリカやフィリピンでマーケティング業務を経験後、独立。その後、オウンドメディア運営を手掛ける合同会社ゆるりを創業。
2児の母で、子育ての相談を母にする日々。目の見えない両親の子育てが、いま自身の子育てに取り入れている「モンテッソーリ教育」と似ていることに気づき、自分の基礎が両親にあったことに気づく。3 人も産み育てた母を尊敬している。

https://www.mimiyomi.audio/

紹介ページはこちら


北村 直也

ナレーション・ゲームCVをこなしながら、業界初の視覚障害を持つ声優として、twitterや多数のメディアで発信活動を行う。毎日欠かさないことはプロ野球のニュースチェックと読書。いつか、野球選手を取り上げた番組でナレーションを担当したい。


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