インタビュー

「CSRやSDGsが着実に推進される社会へ」企業とNPOを繋ぐSIVENTHの挑戦

「CSRやSDGsが着実に推進される社会へ」企業とNPOを繋ぐSIVENTHの挑戦

貧困、差別、気候変動など、現代の社会課題は多様化・複雑化している。リソースやスキルが有機的に結びつき、支援を求めている人に対して適切に、効果的に力を発揮できる仕組みが求められている。

そのような背景から、「企業とNPO/NGOをつなぎ、CSRやSDGsを推進するエコシステムの構築」を目指し、起業したスタートアップがある。テクノロジー、デザインなど4人のスペシャリストが集うSIVENTH株式会社(以下SIVENTH)だ。最高経営責任者のミッチェル・カヴェン・セイドさんに、その取り組み内容や、目指す社会について話を伺った。

本当に助けを必要としている人たちに、支援を届けるために

「現在、さまざまなグローバル企業がNPO/NGOを支援する動きを見せています。それはすばらしいことですが、まだ十分ではありません。私はアフリカのルワンダによく出張するのですが、日本や欧米で頻繁に名前の挙がる大企業が、課題解決のために支援してくれた形跡は見当たりません。私たちは、支援を必要としている世界中の人たちに、より強くコミットする必要があると考えています」

多くの企業がCSR活動の重要性に気づき、リソースを有していながらも、その活動が本当に支援を必要としている人には届いていないのが現状だと、ミッチェルさんは話す。

そうした状況を解決したいという思いから、フロントエンドデザイナーの出満富 舞礼杏(デマント・ブライアン)さん、法務担当のマッカスキル・ジョナサンさん、経営管理担当のドゥッチ・ベラさんの4人でSIVENTHを立ち上げた。

SIVENTHの創業メンバー。左からマッカスキル・ジョナサンさん、ミッチェル・カヴェン・セイドさん、ドゥッチ・ベラさん、出満富 舞礼杏さん。

それぞれ、企業のCSR活動に関する研究や、アフリカのNPOでの勤務経験など、多様なバックグラウンドを持つメンバーだ。ミッチェルさん自身は、20年以上の新規事業開発およびアプリケーション開発の経験を持つソフトウェアエンジニアであるとともに、開発者コミュニティの構築などにも力を注いできた。

2つのサービスを通じ、「CSRに対する正しい理解」と「正しい効果検証」を促す

SEVENTHは、各メンバーのスキルを生かし、企業向けに有償でCSR支援のコンサルティングを行いつつ、無償でNPO/NGOに対する支援を展開。並行して新たなサービス開発に取り組んでいる。

現在リリースしているサービスは、「CSRAAS」と「miSsuS」の2つだ。

「CSRAAS」は「CSR As A Service」の略で、企業のCSRプロジェクト運営を支援するオンラインサービスをSaaS形式(※)で提供する。このツールを使えば、CSR活動のプロセス管理や活動評価をオンラインで完結できるようになり、事業活動そのものがESG(環境・社会・ガバナンス)にどの程度貢献しているかも測定できる。契約はサブスクリプションとなり、そこでSIVENTHが得る収益はすべてNPO/NGO支援に充てられる。そのため、企業は自社のCSRを進めながら、間接的にNPO/NGOに資金提供もできる形となる。

「miSsuS」は、企業のサプライチェーンを輸送効率やコストではなく、プロセスのサステナビリティ(環境負荷)という観点から評価する技術だ。リアルな物品輸送プロセス、在庫状況などにもとづき、プロセスがサステナブルなものになっているかどうかをスコア化できる。主に一般消費財および食品業界を対象に提供し、将来はアパレルや自動車関連業界にも広げたい考えだ。

これら2つのサービス提供を通して、企業がCSRやサステナビリティに対して正しい理解を持つこと、そして、彼らの活動が社会課題解決に適切に効果を発揮しているかどうか把握することを促す。そして、それらの動きをNPO/NGO支援に繋げる循環を生み出していく。

※SaaS:「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略。ソフトウェアをパッケージ製品として提供するのではなく、オンライン上でサービスを提供することで、ユーザーは必要な機能・分量・期間などを絞って利用することができる。

日本からグローバルへ活動を広げる

ミッチェルさんはジャマイカ出身。他のメンバーもウガンダや米国など出身はさまざまだ。日本で起業した理由をこう話す。

「私は9歳までジャマイカで過ごし、米国を経て、日本に来ました。日本での生活はすでに10年。いまはパートナーと娘と共に川崎に住んでおり、私にとって最も長く過ごしたホームとなりました。JICA(国際協力機構)と協力してルワンダのスタートアップを支援するなどの取り組みを続けていることもあり、日本で起業したいと考えていました」

日本での起業において、苦労するのは言語だという。日常的な会話には困らないが、専門的な書面の作成や確認はハードルが高い。会計ソフトウェアなど起業に関するサービスは充実しているが、多言語サポートが不足していたり、追加料金が必要だったりするケースが多く、スタートアップには負荷が高い。家族や友人・知人など、周囲のサポートが欠かせないという。

ただ、活動はグローバルに広げていきたいと考えている。日本での起業と共に、米国デラウェア州にも法人を設立した。現在はまだ実働していないが、サービスを全世界に広げる際の拠点として、あらかじめ用意しているものだ。

「『CSRAAS』や『miSsuS』はクラウドサービスなので、全世界の企業に利用してもらうことができます。日本でビジネスモデルの成功を目指しつつ、世界へと展開する準備を整えているところです。組織はすでにグローバルな体制となっていて、ボランティアとしてNPO/NGO支援を手伝ってくれるコアメンバーには、フィリピンやサウジアラビアなどからリモートで関わってくれている人たちもいます」。

まずは成功例を広げるため、日本国内の体制強化に努めているところだ。日本企業に自分たちの取り組みをもっと知ってもらい、サービス提供を広げるとともに、そこで得た収益をNPO/NGOに対する積極的な支援に充てていきたいという。しかし、現在の体制では同時に2つの組織を支援するのが限界であるため、2021年度中にチームの規模を2倍にすることが目標だ。営業担当者の採用や、Webサイトの多言語化も進めたいと考えている。

「現在、資金調達の計画を進めており、大枠は決まった状態です。完了したらチーム拡大に充て、支援するNPO/NGOを増やしたいと考えています」

SIVENTHの支援を通じて、より効率的なソーシャルアクションを目指す

SIVENTHのNPO/NGO支援によって、どのような課題が解決に近づいているのだろうか。支援先の一つに一般社団法人Spring(以下Spring)がある。

Springは、性被害当事者が生きやすい社会の実現に向けて、刑法性犯罪の改正を目指し、アドボカシー活動を行っている団体で、市民の声を集めるソーシャルアクション「One Voice キャンペーン」を実施している。

アドボカシー活動

人権問題や環境問題などさまざまな課題に対して、多くの人々が関心を持っていることを示し、現行の政策や制度などを変えるよう働きかける活動。被害者など社会的弱者の権利擁護や、主張の代弁などの意味合いを含む。

刑法性犯罪

性犯罪に関する刑法のこと。2017年に110年ぶりに大幅改正されたが、「裁判で同意のない性行為があったと認定されても、それだけでは罪に問えない」など、性暴力(相手の同意のない性的言動すべて)の実態に即した十分な改正とは言えず、多くの課題が残されているという指摘もある。

同キャンペーンでは、市民の顔写真と活動に賛同するメッセージを集め、その声や熱意を後押しとして、議員や識者に法改正に向けた啓蒙活動を行っている。コロナ禍でリアルイベントを開催できなくなったこともあり、より手軽に賛同者の声を集めるやり方を模索していた。

一般社団法人Spring 「One Voice キャンペーン」のページより

SIVENTHの支援を受ける前は、賛同者がメッセージ画像を作成するまでに、WebサイトからのPDFダウンロード、プリントアウト、画像化など手間が多かった。アプリがあれば、手軽にメッセージを送ってもらえるのではないかと考えたが、開発する技術も、外部に依頼する資金もなかった。

そんなときに、Springの担当者がミッチェルさんと知り合う機会があり、SIVENTHが「One Voice」のアプリを開発する運びになったという。現在、アプリは完成に向けて開発が進められており、今後キャンペーン展開に活用される予定だ。

「私たちの活動に賛同いただき、無償で開発していただいたことにとても感謝しています。アプリを活用することで、キャンペーンを活性化させ、刑法性犯罪の改正に向けて、より気運を高めていけるのではないかと考えています」と、Springの担当者は話す。

より多くのNPO/NGOと知り合いたい

「NPO/NGOの抱えている課題を知り、支援先を選定するために、より多くの人たちと知り合える場が必要だと考えています」とミッチェルさんは語る。

SIVENTHの成長を加速させるために参加した、アクセラレーションプログラム「ソーシャルチェンジメーカーズ(SCM)」でも、協働できる多くの社会起業家と知り合えた。社会起業家同士の横のつながりを大切にしながら、より多くのNPO/NGOと知り合い、適切な支援を行っていきたいという。

「2021年に娘が生まれました。その成長に喜びを感じるとともに、彼女が生きるこれからの世界を、より良くしたいという気持ちが一層強くなりました。気候変動や女性差別など、彼女たちの人生に影響を及ぼす可能性のある社会問題を解決し、次世代により良い社会を繋ぎたいと考えています」


ミッチェル・カヴェン・セイド

SIVENTH株式会社の共同創業者・最高経営責任者。ソフトウェアエンジニアとして、大手企業などで20年以上新規事業開発およびアプリケーション開発に携わってきた。Dev Japan、Design Japan、Net Impact in Tokyo等の数々のテックコミュニティを創設者でもある。
今は何よりも、生まれたばかりの娘と遊ぶことが一番の幸せ。出張に行く時も、娘のことばかり考えてしまう。ゲームと筋トレが好きなので、娘がゲーマー&筋トレ好きになってくれたら嬉しい。
アニメ『となりのトトロ』も大好きで、みんなから『トトロ』と呼ばれたいと密かに思っている。
https://siventh.com/

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