インタビュー

株式投資型クラウドファンディングでスタートアップを応援。
社会起業家と投資家をつなぐ「FUNDINNO」とは?

株式投資型クラウドファンディングでスタートアップを応援。 社会起業家と投資家をつなぐ「FUNDINNO」とは?

将来性はあるがまだ実績が伴わないスタートアップが、多額の融資や出資を受けることは難しい。そんななか、新たな資金調達の方法の一つとして注目されているのが「株式投資型クラウドファンディング」だ。日本初の株式投資型クラウドファンディングFUNDINNO(ファンディーノ)を運営する株式会社日本クラウドキャピタルの大田陽洋さんにその全貌を伺った。

さまざまな人から小額ずつ資金を集める

――まずは、FUNDINNOの概要について教えてください。

大田:FUNDINNOは、日本の「株式投資型クラウドファンディングのプラットフォーム」です。スタートアップ、ベンチャーをはじめ、非上場企業がWebサイト上で株式および新株予約権の募集を行い、多くの人から少額ずつ資金を集められるサービスです。

一般的なクラウドファンディングのプラットフォームと同様に、サイトにはプロジェクトが多数掲載されています。各ページでは、事業概要や代表のメッセージなどを見ることができ、それらを参考にしてユーザーは投資先を選びます。

「エーテンラボ」プロジェクトページより一部抜粋(現在は募集終了)。事業内容ほか、ビジネスモデルやマイルストーン、チーム構成など、投資の判断材料となる、充実した情報を発信している。

各プロジェクトには調達の目標金額が設定されており、その目標金額に到達した場合のみ、「案件成立」となって実際の資金移動が行われます。わずかでも目標金額に届かなければ、「案件不成立」となり、企業側は資金を受け取ることができません。

株式投資型クラウドファンディングでの資金調達はエクイティでの調達となり、他の方法と比べて、資金調達までの時間が短いことが特徴。株主が分散することから、経営の独自性が担保しやすい。

2016年のサービス開始以来、2021年8月末の時点で累計192件の案件が成立しており、2021年に入ってからの成約率は、約8割です。成約額の累計は63億円以上。成立案件では平均して1社あたり約3300万円を調達している計算になります。

――投資家は、どんな方が多いのですか?

大田:投資家登録いただいているユーザー約7万人のうち、30~40代が約7割です。職業はさまざまですが、経営者や医師、士業など、高収入の方に多く登録いただいています。ただ、金融資産についてのアンケート調査では、約半数は年収が500万~1000万未満の方となっており、一般企業にお勤めの方を含め、幅広い層の方々にご利用いただいていると感じています。

FUNDINNOで投資をする利点の一つは、イグジット達成によるリターンを得られることです。投資先の業績が順調に伸びて、IPO(新規株式公開)やM&A(企業買収)などにより保有株が高値で売却されれば、大きな利益も期待できます。FUNDINNOで資金調達した192社のうち、2021年8月末時点で、これまで5社がイグジット、もしくは投資家が投資回収に至る取引が発生しています。

最短1ヶ月半で資金調達が可能。事業計画の作成もサポート。

――では、FUNDINNOを利用する企業側にはどんなメリットがあるのでしょうか?

大田:一番のメリットは、スピーディーに資金調達ができることです。FUNDINNOの場合、最初の審査を通過した後に実施されるキックオフミーティング開始時点から、1ヶ月半〜2ヶ月ほどで着金します。キックオフミーティング以降は、下記のようになっており、最短3週間で資金の募集がスタートできるよう、事業計画の策定、審査会議(最終審査)、募集ページの作成、株主総会の決裁……などを並行して進めていきます。

FUNDINNOの審査の流れ

もちろん、案件によっては数ヶ月かけて準備する場合もありますが、なるべく手間と時間をかけずに資金調達を達成していただきたいため、大抵の企業の場合、短期集中で一気にプロジェクト公開まで進めます。

現在はプロジェクトの公開期間は10日間で、実際に投資申込を受け付けるのは最後の3日間というスケジュールが標準的です。「短いのでは?」と不安に思う経営者の方もいますが、募集開始から1分53秒で目標金額に達した例もあり、過去のデータから募集期間を3日間に限定するのがもっとも資金調達の効率がよいと考えています。

「個人投資家=消費者」の反応がダイレクトにわかることもFUNDINNOの特徴です。もし目標金額に到達できなかったとしたら、それはサービスや製品が消費者の目に魅力的に映らなかったということかもしれません。そのまま事業を進めても失敗が危惧されるので、事業計画やサービス設計、PR方法などを見直して、再度、資金調達にチャレンジするのが良いかと思います。

――それらのノウハウが不足しているスタートアップやベンチャーも多そうですね。

大田:はい。そういったスタートアップやベンチャーを支援するために、FUNDINNOでは「専門家集団による伴走支援」を行っています。弊社指定の公認会計士が、募集案件ごとに複数名でチームを組成し、事業計画の作成サポートなどを行います。その際に、客観的な情報を提示しつつ、起業家の意思にそぐわない株価の設定はしません。また、「取締役派遣条項(※1)」や「事前承認条項(※2)」などを含めた複雑な有価証券の設計や投資契約も不要です。資金調達を成功させるために全力でサポートします。

※1 取締役派遣条項……投資家から取締役を派遣させることを約束した契約
※2 事前承認条項……一定の意思決定を行う場合に、投資家に通知の上、承認を得るべき義務を課すもの


――企業の利用料はいくらですか?

大田:一律の審査料11万円(税込)に加え、成約金額の22.0%(税込)をいただいています。「高い」と感じられるかもしれませんが、これには募集ページや事業計画の作成費ほか、登記や株主総会、当局への届け出など、各種サポート業務の費用も含まれています。また、主に成約後にはなりますが、イベントやメディアへのご登壇や取材の機会を提供させていただいています。目標金額に到達できなかった場合は、当然、成約金額の報酬はいただきません。

また、成約後は毎月5万5000円(税込)をシステム利用料としていただいていますが、IR(投資家向け経営情報)をご提出いただいた月には不要です。これは毎月IRを提出して欲しいという思いで設定した仕組みです。投資家登録されている方々は、専用ページで株式を保有する企業のIRをいつでも確認することができるため、成約後も企業側がIRを発信することで、より良い関係性を築くことができます。

――業種や事業形態など、目標金額に到達しやすいスタートアップ、ベンチャーの特徴はありますか?

大田:明確なのは「共感を呼ぶ事業でなければ成功しにくい」ということです。投資家にFUNDINNOでの投資理由を尋ねたアンケート調査では、「企業の成長を応援したいから」が35.8 %で1位になりました。「高い投資リターンを得るため」は、8.6%で5位。多くの投資家の方々は、利益よりも共感性を重視しています。

共感を得られる企業とは、社会課題の解決をめざし、私たちの生活をより良くするために尽くしている企業です。FUNDINNOのサービスを通して、そういった企業を支援したいと考えています。

社会課題の解決に向き合う時間を確保するための、資金調達の選択肢として

実際にFUNDINNOを利用した企業は、どのように資金調達を成功させたのか。2019年に、目標募集額1600万円を大きく上回る5728万円を調達した、エーテンラボ株式会社(以下、エーテンラボ)代表取締役の長坂剛さんに話を伺った。365名の投資家から、新株予約権の形で投資を受けたという。

エーテンラボは、三日坊主防止アプリ「みんチャレ」を運営・開発している。匿名の5人1組でチームを組んで、グループチャットで励まし合いながら生活習慣の改善にチャレンジできるというものだ。2017年にサービスを開始し、累計ダウンロード数は約90万(2021年9月時点)。バイトや勉強、筋トレ、ダイエット、禁酒などの目的に幅広く利用されている。

――なぜ、FUNDINNOを利用しようと思ったのですか?

長坂:当時、「みんチャレ」を医療分野でも利用できるようにするための開発費を必要としており、スピーディーな資金調達を行いたかったためです。

FUNDINNOで調達した資金は、糖尿病患者さんがピアサポート(※3)で「みんチャレ」を利用しやすくするための機能開発や、効果を証明するための臨床実験の費用に使用しました。現在は効果も実証され、多くの患者さんに糖尿病療養のサポートツールとしてご活用いただいています。

※3 ピアサポート……病気や障害など、同じような悩みをもつ人同士が支え合うこと

――FUNDINNOを利用して良かったと感じる点はありますか。

長坂:事業計画書の作成では、安定して利益を上げるためのパラメータの設定方法や個人投資家の方々がどんな点を気にするかなどについて、熱心にアドバイスいただきました。なかなか大変な作業でしたが、結果的に投資家の皆様に納得いただける事業計画書を作成できたと思います。

また、資金調達に成功した後のサポートも充実していました。国内のベンチャー企業で新株予約権者が365名と一気に増えることは珍しく、次の資金調達を相談したVCから既存株への影響などについてさまざまな質問を受けました。その際、FUNDINNOの担当者が丁寧に説明をしてくれたので、無事にVCからも出資を受けることができました。

――社会起業家が株式投資型クラウドファンディングを利用するメリットについて、どう思いますか。

長坂:投資家の中には実際に「みんチャレ」を使って、サービスの効果を実感してくださった方もいました。こうした、サービスの効果を体験できるサービスは、株式投資型クラウドファンディングで成功しやすいと思います。個人的には、初期のうちからなるべく資金を確保して、バックヤード業務専門のスタッフを雇うことをお勧めします。ゼロから会社を立ち上げ、起業家自身が経理や法務、労務などの業務に多くの時間を使ってしまうと、社会課題の解決に向き合う時間がなかなか取れなくなってしまうからです。プロダクトが市場に受け入れられそうという自信を持てて、投資家に説明できるようになったら​、資金調達手段の一つとして、株式投資型クラウドファンディングを念頭に置いておくと良いのではないでしょうか。

起業家と投資家をつなぐことで、社会課題の解決を共に目指したい

FUNDINNOは、現在、セカンダリーマーケット(※4)の準備を進めているところだという。上場企業ほどではない、小中規模の企業の発行済株式を自由に売買できるようになれば、これまで流動性がないことから利用を躊躇していた投資家の参加も期待できる。企業側にとっても、自社株に興味をもってもらう機会が増えるという点から、セカンダリーマーケットの意義は大きい。起業家と投資家をつなぐマッチングプラットフォームとして、その機能を高めていきたいという。

※4 セカンダリーマーケット……発行済株式を投資家間で売買できる市場のこと。 「流通市場」ともいう。

一方で、全てのスタートアップやベンチャーが成功するわけではない。FUNDINNOの審査を通り資金調達に成功した企業でも、これまでに5社、倒産・解散の例があった。そのようなリスクを減らすよう、FUNDINNOは伴走支援や、株主に対する情報開示に力を入れているが、残念ながら事業を畳まざるを得ない場合も、起業家をしっかりとサポートしていきたいという。
「起業家にとって、起業は初めてのことばかりです。残念ながら事業を畳むことになった場合も、経験が豊富な人は多くありません。しかし、伴走支援を行う会計士などのプロフェッショナルは、さまざまなケースを見てきています。どのように投資家にコミュニケーションをとるべきかなど、プロがしっかりとサポートを行い、次のチャレンジへ背中を押せればと思います」(大田さん)

「経営者は孤独になりがちです」と大田さんは話す。

「投資家の方をはじめ、応援してくれる人が世の中にはたくさんいるということを忘れないでいただければと思います。悩んでいることがあれば、ぜひサイトの「事業者登録」からお気軽にご相談ください。起業家の皆さんをサポートすることで、一緒に社会課題の解決を目指したいと思っています」
(大田さん)


大田 陽洋

株式会社日本クラウドキャピタル ベンチャーパートナー。
証券会社にて、資産コンサルタント業に従事したのち、香港拠点にてリサーチセールスとして日本人投資家によるアジア有望企業への投資を拡大、市場発展に貢献した。2019年米国にてMBA取得、その中で現地財団のフェローとしてソーシャルベンチャーの成長を支援し、資金調達手段の拡充の必要性を痛感。2021年4月より日本クラウドキャピタルに参画した。起業家の方に会いビジネスアイデアと夢を学ぶのが楽しみ。野球狂でセ・リーグなら阪神タイガース、パ・リーグは千葉ロッテマリーンズファン。米ヴァンダービルト大学オーウェン経営大学院にてリーダシップを対象とした「Owen Service Award」受賞。

現在FUNDINNOでは、ソーシャルベンチャー特集も実施中。


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