インタビュー

「ゲームのルール」を理解せよ!起業家が語る起業初期のファイナンス(前編)

起業したての頃、誰しもが頭を悩ませるのが資金調達の問題。実際に起業してからでないとわからないことも多い。しかし、これから起業する方、あるいは実際に起業したての方のなかには、「ある程度、資金調達時の指針のようなものがほしい」と思う方も多いのではないか。

そこで今回は、日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ(以下、SCM)の卒業生3名に、起業したての頃の資金調達の実情や、起業家が知っておくべき資金調達に関するポイントなどを語ってもらった。


話を聞いた人:


株式会社Aster Co-Founder, CEO 鈴木 正臣

SCM1期生。地震犠牲者がゼロになる世界を目指し、株式会社Asterを創業。Asterの他にも中小企業経営の経験あり。


エーテンラボ株式会社 代表取締役CEO 長坂 剛

SCM1期生。ソニー株式会社から独立してエーテンラボ株式会社を創業。チームで励まし合いながら習慣化を支援するアプリ「みんチャレ」を開発。


株式会社TPO 代表取締役 マニヤン 麻里子

SCM3期生。金融機関での勤務を経て、日本初となるコーポレート・コンシェルジュ会社、株式会社TPOを創業。「公私融合」をキーワードにQWL(クオリティ・オブ・ワークライフ)向上を通じて、仕事と生活の両立と働く場の多様性・活性化をサポートする。


最初は走りながら考えた

──起業したばかりの時期にどのように資金調達の情報を得たのでしょうか。

マニヤン:最初はわからないことだらけで大変でした。私の場合、周囲の方やエンジェル投資家の方に相談しながらちょっとずつ資金調達についての知識を得ていって、銀行などから実際の資金調達を行っていきました。

株式会社TPO マニヤンさん


長坂:当初ソニーに勤めていた私は、ソニー社内のシードアクセラレーションプログラムに参加して受賞したことから「みんチャレ」のアプリ開発をスタートしました。最初は「みんチャレ」をソニーのアプリとしてリリースし、その後自己資金に加えてエクイティ(株式資本)でも資金調達をして独立しました。
当時は財務について詳しくなかったので、外部の投資家からアドバイスをもらったり、ベンチャー界隈でバイブルと名高い『起業のファイナンス』という書籍で勉強したりしながら、即席でエクイティの知識を獲得した格好です。今となっては、「もっとこうしておけばよかったな」と思うところもたくさんあります。

鈴木:『起業のファイナンス』は私もおすすめです。

マニヤン:私も、Startup Hub Tokyoのような起業相談施設に相談しつつ、本を読んで勉強していきました。とくに『スタートアップ投資ガイドブック』は、起業時のファイナンス手法の全体像を理解するのに最適な書籍でした。

「ゲームのルール」を理解せよ

──資金調達の際にポイントとなることは何でしょうか。

鈴木:「ゲームのルール」を理解することです。大学受験対策でも「まず赤本を読んで傾向と対策を理解しなさい」と言われますよね。それと同じです。

ここでのゲームとは、それぞれの資金調達手段のことです。たとえば、銀行から融資を受けるために作る事業計画書の作り方と、日本政策金融公庫から融資を受けるためのそれとでは、やり方が違います。同じ銀行とはいえ、個々の銀行同士でもやり方は違うでしょう。ですから、その時々でゲームのルール、すなわち何が資金調達の際のポイントなのかを理解する必要があります。

株式会社Aster 鈴木さん

──具体的にはどのように「ゲームのルール」を掴めばいいのでしょうか。

鈴木:融資の可否判断が下るずっと前の段階から、融資のポイントについて根掘り葉掘り聞いておくことです。もちろん、書面上で重視される点だけでなく、暗黙のルールやポイントなども担当者と深い関係性を築くことで聞いておくんです。ポイントがわかっていれば、あとはそれに則って事業計画書を作ったり、プレゼンすればいいだけなので。

マニヤン:確かに、私も最初はルールを理解していなくて苦労しました。エクイティ(株式資本)とデット(借り入れ)の違いを理解していなかったので。エクイティのルールで銀行の融資に申し込んでも、通りにくいのは当然ですよね。もっと早く気づけばよかったのですが。

長坂:私も同じ失敗をしています(笑)。銀行に融資を申し入れる際に、エクイティのときのようなアグレッシブなプランを持っていったら「もう少しトーンを落として、着実に成長するプランを示してください」と言われました。銀行からの融資の際には着実に返済できるようなプランが必要なんですよね。でも当時はまだ、そうした基礎的なルールも理解していませんでした。

鈴木:銀行の融資とVCの投資ではそもそも、プレイしているゲームが違うんです。

銀行による融資は、50社貸し出して1社でも貸し倒れれば「アウト」なビジネスモデル。他方で、VCなどによるエクイティ投資は、50社投資して1社でも大成功すればいいというビジネスモデル。全然違います。

長坂:おっしゃる通りですね。だからこそ、銀行に融資を申し込む際には、向こうのルールに則って事業計画書を作成する必要があります。

最初は信頼できる人や機関に聞く

──エクイティとデットの違いなどのルールを理解していなかったとおっしゃいましたが、そうしたルールはどのように理解していったのでしょうか。

マニヤン:本を読んだというのもありましたが、私の場合、やはり公的な起業相談施設で基礎的な知識を獲得してきたというのも大きいです。投資家とのネットワークが最初からあって起業する人もいますが、そうでない人も多いかと思います。そうした場合には、私のように無料の起業相談施設でまず聞いてみるのがおすすめです。ある程度自分でわかってきたら、投資家の方に相談するというのもいいと思います。

長坂:私の場合は、ソニーのシードアクセラレーションプログラムに参加した際に知り合ったトーマツベンチャーサポートの方から投資家の方々を紹介していただきました。コミュニケーションを重ねていくなかで信用できる投資家の方々と出会い、情報を収集してきた形です。

エーテンラボ株式会社 長坂さん

鈴木:今の会社の前にも、私は中小企業の経営者をしていました。そのときに作った人的ネットワークがあったので、そのなかで詳しい人たちに聞いていました。

イベントやピッチと融資成功との関係性

──みなさんの共通点は、SCM卒業生であるということですが、イベントやピッチ(事業をプレゼンするコンテスト)に出ることは資金調達においてプラスにはたらくのでしょうか。

マニヤン:私の場合は人脈作りですね。やっぱり人とのつながりから得られる情報もたくさんありますので。今は営業などにリソースを割きたいのであまり参加しませんが、折を見て参加してきました。

長坂:アクセラレーションプログラムなどにはよく参加していますね。私も人脈作りが目的です。

鈴木:私たちは、文部科学省が開催した次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)をはじめとして、いくつかのピッチで受賞してきました。結果として、多くの投資家から声をかけてもらえるようになったので、やはりピッチに出る意義はあります。 また、ゲームのルールということでいうと、まだプロダクトやトラクション(実績)のないスタートアップでも、ピッチで受賞することはできる。それを融資の申し込みの際に書くこともできますよね。もちろん、融資審査の際にピッチでの受賞を書いたほうがプラスになるときと、そうでないときがあるので、ご注意ください。たとえば、官庁や銀行などのアクセラレーションプログラムなどは評価されますが、そうでないものは銀行などからは評価されないこともあります。ピッチでの受賞歴を書く・書かないの選択も、融資審査を通すためには慎重に考えなければなりません。

→後編へ続く


鈴木 正臣

株式会社Aster Co-Founder, CEO。1978年静岡市生まれ。米国で留学中に、社長である父親が病気で倒れ、経営支援の為に緊急帰国。技術開発部に配属され今の企業に繋がる技術アイデアを発明。2016年8月にイタリア中部にある美しい街並で有名なアマトリーチェに行きました。しかし、そこで見たのは延々と広がる瓦礫であり、行方不明の家族を探す人々でした。地震によって壊滅した静寂の中に電子音を出し続ける子供の玩具を見た時に、世界を変えなければと強く思ったことが起業のきっかけです。
https://www.dis-aster.com/

紹介ページはこちら


長坂 剛

株式会社エーテンラボ 代表取締役CEO。2006年ソニー株式会社に入社。B2Bの営業やプレイステーションネットワークのサービス立ち上げに従事。ソニーの新規事業創出プログラムから独立し株式会社エーテンラボを創業。テクノロジーを使って人を幸せにしたいという想いで、「みんチャレ」のアイディアを考えていたのですが、どう会社の了承を得ようかと何もアクションを起こせていなかった時に、自分でやれば良いと気づき、起業しました。
https://a10lab.com/

紹介ページはこちら


マニヤン 麻里子

株式会社TPO 代表取締役。一橋大学社会学部卒、仏HEC経営大学院修了。仏ソシエテ・ジェネラル証券、米ゴールドマン・サックス証券会社等に勤務した後、2016年に起業。UWC ISAK Japan理事。二人の子供のワーキングマザーとして働く中で、日本ではまだまだ両立が難しい環境だと実感したことが起業のきっかけです。フランスやアメリカで生活し、働いた経験もあるため、両立しながらでも、もっと力を発揮することのできる環境があると信じています。
https://tpo.me/

紹介ページはこちら


SNSシェア

Facebook Twitter LinkedIn