レポート

「産官学連携」はスタートアップの武器になるのか~VC・みらい創造機構の岡田さん・菅野さんに聞く

「産官学連携」と聞くと、カタいイメージがあるが、実はこの方法を活用して事業を成長させている企業や、産官学連携きっかけの起業が、数多く存在している。今回は、そんな産官学連携について深掘りすべく、2016年以降東京工業大学と連携したベンチャーキャピタルファンドを二度も組成し、日本の産官学連携をリードしてきたみらい創造機構のお二人に実情を聞いた。


話してくれた人:岡田 祐之

株式会社みらい創造機構。2014年にみらい創造機構を設立。東工大に縁のあるスタートアップを中心とした産官学連携に取り組む。


話してくれた人:菅野 流飛

株式会社みらい創造機構。2020年よりみらい創造機構で主にバイオ領域および高専関連ベンチャーへの投資・ハンズオンを担当。


産官学連携のパターン

──産官学連携が最近ブームになってきていると感じます。どのような経緯で盛り上がってきたのでしょうか。

岡田:2014年に「官民イノベーションプログラム」制度が発足したことにより、国立大学法人がVCを設立することが可能になったこと、2017年に「指定国立大学法人」制度の創設により、国が世界に伍する大学を育成していく姿勢を見せたこと、この2つのイニシアチブの流れを受けて盛り上がってきましたね。

官民イノベーションプログラム

国立大学が出資を行いVCを設置し、ファンドを創設することを可能にした制度。国立大学の研究成果を事業化し、世の中に成果を還元していくことが狙い。東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学の4大学が対象となった。

──産官学連携にはどのような形式のものがあるのか、教えていただけますか。

岡田:我々が取り組んでいる中でいうと、「出資」「共同研究」「起業家の育成」の3パターンがあります。

一番わかりやすいのは「出資」のパターンです。我々の場合、出資もさらに「東工大発」「東工大卒」「東工大着」の3つのパターンに分けることができます。

「東工大発」は、東工大の研究室から生み出された技術シーズに対して、我々みらい創造機構と事業会社などの力を借りながら一緒にビジネスを育て上げていくパターンです。

例えば、アンモニア製造を行う「つばめBHB株式会社」の事例があります。東工大の細野秀雄栄誉教授のグループの研究シーズを事業会社とともに産業実証をすすめて、そのままビジネス化しました。

──「東工大着」のパターンというのは、どのようなケースなのでしょうか。

岡田:スタートアップが大学外にある場合に、東工大の研究室の協力があればもっとビジネスが前に進みそう、という時に我々が研究室とその企業をつなぎ合わせるようなケースです。

──出資以外でも、「共同研究」が事例としては多いかと思いますがいかがでしょう。

岡田:そうですね。ただ、一口に「共同研究」と言っても、ここ数年でその様相は変わってきています。昔の「共同研究」は、事業会社が遠い未来での事業化を期待して、研究フェーズを切り出して社外で行うようなものでした。企業が直接特定の研究室に案件を持ち込み、それに対して研究室が対応する、という形です。企業からすると将来の社員候補を探す、という意味合いもありました。

ところが、最近の「共同研究」は、これまでの1企業対1研究室という関係から、企業との連携を通して類似の研究テーマを持つ複数の研究室がつながり、そこから新しいものが生み出される、という流れを進める大型研究推進体制に変わっているものもあります。

そのような「共同研究」において、各大学の「オープンイノベーション機構」のような組織は、それぞれ独立している研究室がどのように連携すればよりよい成果を出せるか、研究戦略を考える機能を担っています。

研究のシーズと顧客のニーズを合致させる

──「起業家の育成」パターンについてはいかがでしょうか。

岡田:「起業家の育成」へのアプローチには、2つのパターンがあります。1つは大学の授業を受け持ち、学生に対して、起業というあり方を学んでもらったり、先輩起業家の話を聞いてもらったりすることで起業を身近なものとするパターン。

もう1つは、研究者や先生方の研究成果をもとに、JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)の起業支援プログラム(研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム、通称START)を活用して、起業までの過程を支援するパターンです。

また、これとは別に、大企業が研究室と共同研究をしたり、自社で開発を進めてきた技術シーズに対してスタートアップとして新たな事業を育成したりする場合に、いきなりスタートアップにフルコミットをするのにはリスクがあります。スタートアップにとっては、頑張って立てた売上10億円も、売上5兆円規模の大企業にとっては微々たるものと捉えられてしまうこともある。

そうした場合に我々が、投資家としての立場で手伝うことがあります。

一度大企業からプロジェクトを切り離し、我々がそのプロジェクトの事業化を伴走して事業会社のサラリーマンを起業家として育成します。

──研究者の方たちによる事業でも、伴走支援は必要ですか。

岡田:全員が全員そうというわけではないのですが、伴走支援が必要になることは多いです。と言うのも、研究者の方は手元にある研究シーズを起点とした「プロダクトアウト」の発想であることが多いからです。でも、ビジネスの視点で考えると、市場のニーズがすぐに見出せないプロダクトの事業展開は大変難しいものとなります。その辺りのズレがあるので、研究者の方だけで事業を始めるよりも、我々のように普段から顧客のニーズを調査、理解しているVCと一緒にやった方が成功確率は上がると、研究者の皆さんにもご認識いただいています。

菅野:ディープテックのような領域ですと、市場の理解だけでなく、業界の政治構造などについても理解がないと物事が進まない場合も多いです。そのようなケースでも、研究者の方々が単独で事業を進めるより、業界の全体像の知識があるVCと一緒に動いた方がスムーズに事業展開できる可能性は高いです。

プロダクトアウト

提供する側の視点で商品を作った後で、市場で販売すること。対義語はマーケットインで、市場のニーズを把握してから、ニーズに合致した商品を作り、消費者に提供する。

ディープテック

最先端技術を基盤とした技術、並びに技術に基づいたプロダクトのこと。世界に与える影響は大きいが、プロダクトを作るのに必要な時間や費用が膨大で、求められるスキル・技術力も非常に高い。

──みらい創造機構は、グロース専門のチーム(※)を最近立ち上げられたと伺いました。

岡田:そうなんです。自ら起業し、事業成長のアクションを経験してきたメンバーを招聘し、出資先に入って伴走支援をしています。

基本的に我々が出資するのは、IPOやM&Aなどの「出口」を当初から想定している場合のみとなります。我々VCは投資家から資金をお預かりしている以上、「出口」でしっかりとリターンを回収できる見込みがなければ出資できません。

ただ、ビジネス的にはまだ検討が進んでいないが研究内容が優れているテーマについても、我々としては成長させていきたいですし、ゆくゆくは投資したいという気持ちがありました。なので、会社設立の前段階、投資の前段階を支援すべく、GAPファンドという形での支援も進めています。

GAPファンド

ニーズがありそうな技術シーズを用いて試作品を作る資金を提供するファンド。試作品を作ることで事業化できそうかどうかを判断する。

菅野:ビジネスで微分積分以上の難解な計算は出てきません。研究者の方たちが起業をして上手く行かないことがあるのは、ビジネスの経験がないという理由が大きいと思います。ビジネス特有のコミュニケーションや考え方といった点で、研究者の方を支援できればと考えています。

※ グロース専門のチーム…ディープテックの研究開発に取り組むスタートアップには、ビジネス開発に長けた人材がいないことも多い。そのため、みらい創造機構はそういったスタートアップに投資だけではなく、実際に事業を動かすCOO/CFOとなるような人材をアサインして投資先支援に取り組んでいる。

大学外から大学を活用できるのか

──大学とつながりを持っていないスタートアップが「この研究室とコラボレーションしたら面白そうだな」と感じた場合に、どのように研究室にアプローチすればいいのでしょうか。

菅野:大学の研究室に直接問い合わせるよりも、まずは産官学連携に知見のあるVCや大学のオープンイノベーション機構に打診した方が色々とスムーズに進む可能性は高いですね。VCが大学にスタートアップを紹介する場合、VC側も自分たちの信用をかけて紹介するので、大学側も信用しやすいでしょう。

──ビジネス界でもエビデンスが重要視されるようになってきているかと思います。スタートアップが大学の研究室を巻き込みながらエビデンスを得るメリットは何でしょうか。

岡田:2つあると思います。1つは信頼性を付与することでマーケティングに役立つ点。もう1つはエビデンスを設計にフィードバックしてプロダクトの改良ができる点です。

我々が経験した例を出します。旭川高専と旭川の企業が組んで立ち上げたヘアケアブランド「ririQ」は、原材料にセルロースナノファイバーを活用しているのをウリにしています。セルロースナノファイバーは単価が高いため市場拡大に課題があったのですが、コスメであれば高単価で販売できるため、商品開発に至りました。その商品の効果は、研究室との共同研究によって明らかになっており、累計3,000本の売り上げを達成しています。

スタートアップが大学の研究室と一緒に研究するというのはなかなか難しいですが、これまで我々がいくつも経験をさせていただいたノウハウをうまく活用していただければと思います。

高専には産官学連携の人材が眠っている

──産官学連携の理想の一例として、Googleなどを輩出したアメリカのスタンフォード大学の事例があると思います。日本でスタンフォード大学のような研究開発型スタートアップを生み出す母体はどこになると思いますか。

菅野:やはり大学はどこまで行っても研究に軸足を置いた組織です。イノベーションを創出できるだけのテクノロジーのスキルがあって、研究ではなく実践に軸足がある組織。このような組織があれば、研究開発型スタートアップを生み出す母体たり得ますよね。

そうした観点から言えば、我々は高専に可能性を感じています。高専生はテクノロジーに関する知識やスキルをベースとして確実に持っているので、高専生がより実践志向になりビジネスに触れて育っていけば、ビジネスとテックの両面がわかる人材の絶対数が増えます。その結果、テック系のスタートアップも増えていくのではないでしょうか。その中で、圧倒的に成功するスタートアップの事例がいくつか出てくれば、いずれは、スタンフォードに伍するようなスタートアップエコシステムも築けるのではないか、と考えています。

高専とは

高等専門学校の略称。技術者養成のために作られた高等教育機関。一般的に15歳で入学し5年間かけて修了する。51の国立高専がある。

今の高専の在学生たちは、スキルもポテンシャルもありますが、多くの子が地域在住であるため、それらを十分に生かせる実践の場を持っていません。

私たちはそこに着目し、約700名を超える高専エンジニアネットワークをつくり、大企業やスタートアップとつなぐことで、サービス開発の機会を提供してきました。産と学の連携は大きな可能性を秘めているので、もしご関心のあるスタートアップの方がいればぜひご連絡ください。


岡田 祐之

株式会社みらい創造機構。東京工業大学大学院修士課程修了後、東京電力入社。原子力部門にて新技術開発に従事。TNPパートナーズ出向、ハンズオン支援を手掛ける。「大企業と中小企業」、「事業会社と金融」を理解し、事業組成からサービス化、営業戦略までの戦略立案と実行の経験を積む。2014年にみらい創造機構を設立。大学時代の研究テーマは「複合材料の界面挙動の研究と核融合向け材料のプラズマに対する影響評価」。東京電力に関心をもったきっかけは、新興国のエネルギー消費拡大によって生ずるであろう課題に対して、エネルギーセクターにおける材料開発が、その解決に向けた新たなエネルギー技術開発において重要になると感じていたため。


菅野 流飛

株式会社みらい創造機構。東京高専卒業。東京工業大学大学院博士課程進学。リブセンス事業部長、リクルート事業開発など、IT業界でベンチャー企業から大手企業まで渡り歩いてきた。2017年に株式会社高専キャリア教育研究所を設立。高専に特化したキャリア開発プラットフォームの構築を推進している。みらい創造機構では主にバイオ領域および高専関連ベンチャーへの投資・ハンズオンを担当。大学院時代の研究テーマは「真核細胞生物における染色体分配機構の解明」であり、当時はまだ珍しかったバイオインフォマティクスなどを応用した実験を行っていた。


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