レポート

技術がなくてもアイデア次第で宇宙スタートアップは作れる!宇宙飛行士・山崎直子氏に聞く宇宙ビジネスの可能性

近年、イーロン・マスクやジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソンなど、ビジネスで財を成した資産家がこぞって宇宙ビジネスを始めている。まさに宇宙時代の到来、といった様相だ。国内でも堀江貴文氏などの有名実業家が参入し、日本のこれからを担う産業として注目を集めている。

今回は、宇宙飛行士で一般社団法人スペースポートジャパン代表理事の山崎直子氏に、宇宙産業や宇宙スタートアップの展望、宇宙に人が移住する時代は到来するのかなど、宇宙産業のこれからについて幅広く伺った。

航空宇宙産業は日本優位

──山崎さんが現在注力されているスペースポートジャパンの活動について教えてください。

山崎:スペースポートジャパンは、日本に民間企業や自治体と連携したスペースポート(宇宙港)を作るためのプラットフォームです。すでにアメリカには、民間企業が主導して作ったスペースポートを含め14カ所が認可を受けています。日本でも宇宙旅行産業に必須になるスペースポート設置を加速させるべく、支援するために立ち上げた次第です。

すでに北海道の大樹町、和歌山県の串本町、大分県の大分空港、沖縄県の下地島空港の4カ所がスペースポートを作ろうと動いています。それぞれ、民間企業と自治体が協働して整備を推し進めているところです。

──素朴な疑問ですが、スペースポートというのは宇宙旅行機が打ち上げられる場所ということでよろしかったでしょうか。

山崎:そうですね。空港のようなものです。ただ機体が離着陸するだけではなく、来る人が楽しめるような場所であり、地域に根ざした場所にしていきたいと考えています。宇宙から戻ってきた人が地域ならではの温泉に入りながら地球になれるためのリハビリができたり 、ドローンでいろいろなものを運搬するための物流拠点にしたりなど、アイデアはさまざまです。それぞれの地域の特色を出していきたいですね。

アメリカでは、ヴァージン・ギャラクティック社や、スペースX社などによって、宇宙旅行用の訓練が実施できる施設やスペースポートが建設されています。訓練ができる上に、ホテルも併設する施設も、フロリダに建設予定です。

──まさに空港ですね。国際的に見て、日本のスペースポート建設予定地としての魅力はどういったところにあるのでしょう。

山崎:まず、日本は航空宇宙産業が集積していて基盤があること。安全が確保できるように海に囲まれて開けた土地があること。それぞれの地域に魅力があるので、地域の特色を打ち出した観光の面で付加価値の高いスペースポートを作れること。国際的に見ても、こうした魅力や優位性があります。

現状、世界の宇宙産業全体の市場規模は約40兆円と言われていますが、2040年には100兆円程度になると見込まれています。今の航空産業と同じくらいの規模ですね。2021年には民間の宇宙飛行者の数が、国が派遣した職業宇宙飛行士の数よりも史上初めて多くなり、「宇宙旅行元年」とも呼ばれました。日本でも2017年に宇宙活動法が成立し、内閣府が衛星データの利用促進に向けた環境整備や継続的な衛星開発などの方針を打ち出した「宇宙産業ビジョン2030」を制定しました。これによって、日本でも民間企業が宇宙産業に参入しやすくなったと言えます。

宇宙旅行が当たり前になる時代が来る

──宇宙旅行が当たり前になる時代はいつ頃になるのでしょうか。

山崎:海外旅行プラスアルファ程度の値段で宇宙旅行に行けるのは、2040年代頃ではないでしょうか。2020年代後半くらいから徐々に価格が下がっていくと思います。

機体の性能がパワーアップしていくと、宇宙の近くを通りながら各国の都市に離発着することもできるようになります。そうすると、宇宙を経由して地球内都市間の移動を速くすることができるんですね。例えばスペースXは2017年に、2022年以降にニューヨーク・上海間を宇宙を経由して39分で結ぶ構想を発表しています。

地上の輸送手段として、「宇宙機」を使う時代が来るんです。P2P輸送と呼ばれますが、技術的には2020年代後半からできるようになります。宇宙を経由するにしても特別な技術訓練などは不要で、飛行機に搭乗する際にビデオを見る程度のブリーフィングを受ければ搭乗可能になっていくでしょう。

P2P輸送

地上間の2地点をつなぐ、高速2地点間輸送のこと。日本では文部科学省が2021年に研究開発に乗り出していて、2040年代に10兆円規模の市場を早出することを目指している。

すると宇宙機の機体価格も下がっていくので、2040年代後半くらいには宇宙機に乗って旅行したり、移動するのが当たり前の時代になるのではないか、と予測されています。

──宇宙に行くことが目的ではなく、宇宙を経由して地上を移動する時代が来るのですね。

山崎:そうですね。宇宙機を使った都市間の移動が当たり前になるとすると、その拠点となるスペースポートが日本国内にあることが非常に重要になります。世界の宇宙産業のハブを目指すためにも、早めに準備しなければなりません。それがスペースポートジャパンを設立した理由でもあります。

宇宙はかつてのインターネットのような「場」。アイデア次第で宇宙ビジネスは作れる

──宇宙旅行が活発になるということですが、民間の宇宙旅行会社も現れてきているのでしょうか。

山崎:アメリカではすでに複数出てきています。日本でも、民間企業のクラブツーリズムが宇宙旅行を企画しています。これからもたくさん出てくるのではないでしょうか。

例えば宇宙旅行をするにしても、朝に出発するのと夜に出発するのとでは、見える景色が違いますよね。いろいろな企画があり得ると思います。リピーター客も出てくるでしょうし、宇宙旅行会社は盛り上がっていくのではないでしょうか。

──技術がなくても、企画力があれば宇宙旅行会社は作れそうですね。

山崎:そうなんです。技術は集められるので、アイデアがあれば宇宙スタートアップは作れてしまいます。世界的に見ても、ロケットや衛星を作る企業よりも、宇宙を絡めたサービスを展開する企業の数の増加が著しいです。宇宙のデータを使って何かをする、といったタイプの企業ですね。

──なるほど。日本の宇宙スタートアップの現状はどうなっていますか。

山崎:2022年現在で50社以上の宇宙スタートアップが日本から生まれています。ロケットや衛星を作る企業はもちろんのこと、衛星データとAIを掛け合わせたサービスを展開する企業もあります。これからもさまざまなサービスが出てくることを期待しています。

宇宙スタートアップについては、JAXAも支援していますし、内閣府も「スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)」と称して支援を行ってきています。もし興味がある方がいれば、こうしたところにアイデアを相談しに行くところから始めてみてもいいのではないでしょうか。

スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)

宇宙領域で新サービス創出に興味を持つ個人や企業、団体などが参加できるネットワーク組織。宇宙ビジネス・アイデア・コンテスト(S-Booster)や宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム(S-Matching)などのイベントを実施するほか、セミナーやアドバイスなど、幅広い支援を行っている。

──宇宙におけるビジネスモデルでいうと、日本が他国より強い分野はどんな分野になるのでしょう。

山崎:人工の流れ星を作るプロジェクトのようなエンタメ分野や、宇宙ごみの回収の分野などは特徴的です。宇宙食や宇宙服などの分野も幅が広いですね。私が宇宙に行ったときも、蒸れにくくて高機能な日本の宇宙船内被服を着ていると他国の宇宙飛行士から羨ましがられました。日本製のカップラーメンやカレーもとても美味しかったです。もちろん、ロケットや衛星の分野も信頼性などに強いです。

──聞いてみると、一口に宇宙産業と言っても、できることがいろいろありそうですね。

山崎:かつてインターネットが出てきたときも、インターネットで何ができるかはそこまでわかっていなかったのではないでしょうか。インターネットは「場」であって、可能性だけがあった。宇宙も同じです。宇宙という「場」があります。そして近年、その「場」へのアクセスがしやすくなってきています。可能性は無限大なので、宇宙を使って何ができるか考え、そのアイデアをぜひ実現していただきたいです。

地球が死滅する前に火星移住は実現するのか?

──以前から気になっていたのですが、地球が死滅する前に人類が惑星間を移動できるようにならなければ、人類は絶滅してしまいますよね。

山崎:何十億年というスパンで考えると、いずれ地球は太陽に飲み込まれてしまいますので、その可能性はありますよね。その前に氷河期が来たり、隕石が降ってきたりする可能性もあるわけですから。そうならないように、地球以外に拠点を作っていく動きはこれからますます進んでいくはずです。イーロン・マスクは「地球のバックアップを作る」と表現していますよね。

逆にジェフ・ベゾスは、地球にとって害になる工場や発電所を宇宙に作ることで、逆に地球を守れるのではないか、という考え方を提示しています。これからは地球の課題を解決するためにも、宇宙を活用する時代が来ます。

──普通に宇宙旅行できる時代は2040年代に来るということですが、宇宙移住できる時代はいつ来るのでしょう。

山崎:イーロン・マスクは2030年代に火星に人を送ると言っていますよね。でも実際に移住するとなると、ロボットや自動建築などの技術、宇宙農業のノウハウ、惑星保護の議論なども必要になるので、現実的には2040年代頃になるのではないでしょうか。時期は読めませんが、人類が異星に移住する時代は確実に来ると考えています。

自動建築や宇宙農業などの宇宙産業

宇宙では、人と協調したり、或いは人の手を介さなくてもロボットが自動で建築できる技術が必要となる。また、地球から食物を運搬するにはコストがかかるため、宇宙で食物を栽培できるように宇宙農業の研究も進められている。「温室ドーム」を用いれば、米やサツマイモなどが栽培できることはすでに実験で確認されている。

──火星などの惑星に移住するとしたときに、気をつけるべきことは何でしょうか。

山崎:惑星保護という観点は重要です。火星にはまだ生き物がいるかもしれないので、地球から有害な菌を持ち込まないこと。人間が移住する場合には絶対に菌を持ち込んでしまうので、火星の生物について十分に調査してから移住しなければなりません。逆も然りです。地球に戻る際にも、火星の菌を持ち込まないようにします。

──火星に生物がいるかもしれないということですが、やはり宇宙人はいるのですか。

山崎:宇宙人かは分かりませんが、何らかの地球外生命体の可能性は否定できませんね。折しもNASAが「未確認航空現象(UAP)」を科学的に調査するチームを立ち上げ、2022年秋より調査を開始すると発表しています。宇宙に生物がいるかどうか、研究の進展に期待したいですね。

宇宙ビジネスに挑戦する人が増えてほしい

──山崎さんが宇宙飛行士を目指すことになった理由は何だったのでしょうか。

山崎:子どものころにテレビで『宇宙戦艦ヤマト』を見たことが最初のきっかけです。本当は裏番組の『アルプスの少女ハイジ』を見たかったんですけど、チャンネル争いに負けて番組を偶然見たらハマってしまいました。そこからは『スター・ウォーズ』などさまざまな宇宙コンテンツに親しんできました。

でもその頃、日本には宇宙飛行士という職業はなかったんです。私が中学生になった頃に初めて日本人宇宙飛行士が登場して、そこで初めて宇宙飛行士という存在を目指し始めました。

──実際に宇宙に行って、どのような感想を抱かれましたか。

山崎:ずっと憧れだった宇宙に行ってみると、地球の方が特別な場所であることに気づきました。宇宙は真っ暗ですが、そのなかに真っ青な地球があって。とても感動的でした。そこであらためて、この地球を守っていきたいな、ふるさとを守りたいな、と思ったのを覚えています。

──なるほど。山崎さんのように宇宙に興味を持っている方はたくさんいると思います。そうした方に向けてメッセージをお願いします。

山崎:先ほど申し上げたように、宇宙ビジネスへの参入障壁は下がってきました。最初から技術がなくても、ビジョンをしっかり持っていると、賛同する人が集い、技術も集まってきて、更なるイノベーションが生まれます。ぜひ宇宙ビジネスに、熱意をもって積極的に挑戦してみてください。


山崎 直子(やまざき なおこ)

千葉県松戸市生まれ。1999年国際宇宙ステーション(ISS)の宇宙飛行士候補者に選ばれ、2001年認定。2004年ソユーズ宇宙船運航技術者、2006年スペースシャトル搭乗運用技術者の資格を取得。2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗、国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションSTS-131に従事。2011年8月宇宙航空研究開発機構(JAXA)退職後、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、公益財団法人日本宇宙少年団(YAC)理事長、女子美術大学客員教授、宙ツーリズム推進協議会理事、2025年日本国際博覧会(万博)協会シニアアドバイザー、環境問題解決のための「アースショット賞」評議員などを歴任。
スペースポートジャパン


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