レポート

「産官学連携」はスタートアップの武器になるのか~「社会起業家」を支援する仙台市・白川氏と酒井氏に聞く

数ある地方自治体のなかでも、特にソーシャル分野のスタートアップに対して手厚く支援している仙台市。アクセラレータープログラムだけでなく、実証実験の場なども提供している。

そんな仙台市のスタートアップ支援をリードしている仙台市経済局産業政策部産業振興課の白川さん、酒井さんのお二人にスタートアップが行政をどのように活用すべきなのかを聞いた。

東日本大震災が課題解決の本気度を上げた

──白川さんは仙台市でスタートアップ支援に携わられて10年弱になると聞きました。白川さんのご経歴について伺えますか。

白川:私は秋田県出身で、大学で仙台に進学し、「東北の地域経済全体を活性化したい」という思いで仙台市に入庁しました。入庁して3年目の2011年3月11日、福祉系の業務をしていた際に東日本大震災に被災しました。私がいた庁舎は大きな被害を受け、区役所に戻るなかで地震の被害を目の当たりにし、同僚が津波にさらわれるなどを体験しました。その時、「大変なことになったな」と強く思ったことを覚えています。

──震災をきっかけに仙台市のスタートアップ支援が始まったのでしょうか。

白川:そうですね。ただ、それまでも人口減少が見込まれていることや、産業の活性化や一次産業の人材不足など、地域課題は山積みで、それらの課題に取り組む必要性は感じていたものの、実際に動き出せてはいない状況でした。東日本大震災がそれらの課題を露呈させて、解決に本腰を入れる必要があると思わせるきっかけとなった部分はあると思います。

東日本大震災の後、東北での起業が増えていくなかで「起業を後押ししよう」という機運が生まれ、2013年当時の仙台市長が「日本一起業がしやすいまち」を目指すと宣言し、そこから仙台市のスタートアップ支援が始まりました。2016年には「ソーシャル・イノベーション創生特区」という国家戦略特区として指定され、規制緩和により民間も巻き込んだスタートアップ支援が加速しました。

私は、2013年から、ずっとスタートアップ支援に携わってきました。自治体職員が同じ部署に10年近くもいるのはかなり珍しいと思います。

──現在、仙台市はどのようなビジョンを持ってスタートアップを支援されているのでしょうか。

白川:ゼブラ企業輩出とユニコーン企業輩出の2つを柱に据えています。ゼブラ企業は、「営利企業」という事業体を取りながらも、利益創出ではなく社会や地域のためになることを第一に、持続的に事業を営む企業のことですね。一方で、テクノロジーを使って大規模にスピード感をもってビジネスを展開していくユニコーン企業も仙台から生まれれば、という思いで支援しています。

ゼブラ企業とユニコーン企業

「ゼブラ企業」とは、企業単体の利益だけでなく、社会全体の公益も一緒に追求する企業のこと。一見相反する2つの利益を追求するところから、白と黒の正反対の色を共存させているゼブラ(シマウマ)に喩えられた。一方、「ユニコーン企業」とは、評価額が10億ドル以上で、設立10年以内の未上場企業で、自社の利益のみを追求する。

スタートアップ・エコシステム拠点都市

内閣府が文部科学省や経済産業省などと連携して世界に伍するスタートアップ・エコシステムを日本で創るために選定した都市。該当都市は、国から各種補助事業、規制緩和、海外展開支援などの支援を得られる。グローバル拠点都市としては、首都圏・東海・京阪神・福岡が、推進拠点都市には、札幌・仙台・広島・北九州がある。

──「ゼブラ企業」のような社会課題に取り組むスタートアップを輩出していきたいと銘打つ自治体はまだ多くないと思います。仙台市として、どのような意図があるのでしょうか。

白川:現在行政がやっている取り組みの中には、社会起業家のサービスやプロダクトで解決できることもたくさんあると思っていて、そこを一緒にやっていきたいという気持ちがあります。また、多様な働き方を広げていきたいということもあります。大企業だけでなく面白いスモールビジネスやスタートアップ、社会課題を解決する企業など、幅広い選択肢があれば、若者が大学卒業後も地元に残りますよね。

仙台という都市を持続可能な自立した都市にするために、「ゼブラ企業」を増やしていきたいです。

4つのプログラムで社会起業家を支援

──仙台市が提供しているプログラムについて教えてください。

酒井:この表にあるように主に4つあります。

酒井:SIA(SOCIAL INNOVATION ACCELERATOR)は、ビジネスの手法で社会課題の解決を目指す起業家の方を対象にしています。東日本大震災を受けて、社会課題の解決を目指そうという人が増えましたが、社会課題を解決するためのビジネスを作るのは一筋縄ではいかないので、そういった方々を支援するために2017年に立ち上げました。メンターとともにビジョンやミッション、事業計画を磨き、プログラムの最後には、ソーシャルイノベーションサミットという場でプレゼンもしてもらいます。

SIAの卒業生には、障害者の方々を雇用し、「裂き織」という伝統技術を用いたアパレル製品を展開する「幸呼来Japan( さっこらじゃぱん)」という企業があります。大手通販会社などともすでに連携されています。(その他の卒業生はこちら

TGA(Tohoku Growth Accelerator)は、テクノロジーを使って社会課題を解決したいという起業家を対象にしています。事業を拡大していくフェーズにあるスタートアップに対してメンタリングやレクチャーなどの支援を提供します。

SENDAI NEW PUBLICは、産学連携にフォーカスしたプログラムです。近年、大学の先生方の起業意欲が高まってきています。そうした方々が持つ技術シーズを、市場のニーズに合致させてビジネスとして発展させるためのプログラムです。事業計画のブラッシュアップだけでなく、ビジネスサイドの人材とのマッチングなどの支援もしています。

クロス・センダイ・ラボは、アクセラレータープログラムではなく、仙台市と民間企業との連携窓口です。民間企業と行政が組んで近未来技術の実証実験などを実施しています。

白川:他にも防災・減災や、ヘルスケア、介護、DXなどをテーマにしたプログラムがあります。先程お話ししたようなビジョンをもとに、すべて私たちの課で外部団体と組みながら企画しており、スタートアップのコミュニケーションのハブとなることを意識しています。

行政とスタートアップの理想的な関係

クロス・センダイ・ラボの仕組み

───アクセラレータープログラムは各地で散見されますが、どうしてクロス・センダイ・ラボを立ち上げられたのでしょうか。

白川:元々、神戸市が実証実験には積極的ですが、震災の影響もあってか、仙台市も以前から「実証実験をしたい」という要望は多かったです。テック系の実証実験は都市部だと難しいこともありますが、仙台市は都市部もあれば山や海といった自然もあるので、他地域に比べ様々なフィールドが提供できます。

───実証実験はどれくらい行われていますか。

白川:年間100件ほど実証実験の相談が持ち込まれ、うち20件ほどの実験を実現しています。

例えば、災害時の避難誘導にドローンを活用するという事業の実証実験を行いました。東日本大震災のときに現場で避難を呼びかけた職員が亡くなったことをきっかけに生まれたアイデアで、クロス・センダイ・ラボでの実証実験を経て、2022年4月から本格的に導入される予定です。

───実証実験を仙台市に持ち込むにあたってのポイントはありますか。

白川:プロダクトがある程度できあがってからいらっしゃるケースが多いですが、プロダクトができていない段階から実証実験していただいたほうがニーズとのズレが出なくなる、とは思いますね。

ただ、仙台市に持ち込めば、思った通りに実証実験ができる、というわけでもないのでご注意いただきたいです。

私たちも行政なので、内部調整のために実証実験を実施するまでに申込からおよそ6カ月程度かかってしまいます。しかも、実証実験をしたからと言って、そのサービスやプロダクトを行政で導入するとは限りません。導入することになったとしても契約手続きにさらに時間を要するので、売上になるのはかなり先の話です。

なので、そういったスピード感を理解していただいた上で利用していただきたいですし、場合によっては行政と組まない方が良いかもしれません。そのあたりは自社のビジネス戦略と照らし合わせて仙台市に持ち込むべきかどうか、検討してもらえればと思います。

スピード感について懸念があるのであれば、仙台市以外の自治体とも同時にやり取りしておくということも手です。仙台市で対応できないことであっても、同じような条件を持った他の都市でスピーディーに対応できる、というケースもあるでしょう。私たちのプログラムは1つの「リソース」として捉えて活用してほしいですね。

──なるほど。相談に行けば最適な「リソース」をおすすめいただけるのでしょうか。

白川:そうですね。まずはご相談いただければ、最適なプログラムやネットワークをできる限りご紹介します。そのときは結局利用しない、となっても、私たちのスタートアップのデータベースに登録させていただければ、いつか何かおすすめのものがあったときにお声がけさせていただきます。

社会起業家を応援する地方自治体として

SENDAI SOCIAL INNOVATION SUMMIT 2022の授賞式

──今の課題や今後の展望があればお聞かせください。

白川:起業支援センター「アシ☆スタ」をはじめとして、起業家コミュニティは着々とできあがってきています。次の目標としては、起業家が起業家を育てるエコシステムを作っていければと考えています。

また、現在はスタートアップ支援も行政が中心となって行っていますが、もっと地場の産業界・経済界の皆さんを巻き込みたいですね。その取っかかりとして、地域の経営者がスタートアップの顧問になる仕組みがあってもいいんじゃないかと模索しています。

そして、実証実験や社会課題を解決するスタートアップの支援には、地域住民の理解も不可欠です。スタートアップ界隈だけでなく、地域に対しても広報活動を行う必要があると感じています。

──「ソーシャル」に積極的な自治体は、スタートアップにとっても有難い存在だと思います。

白川:スタートアップを「ゼブラ企業」として成長させていくのはなかなか難しいとやっていて思います。SIAのようなプログラムをやっていても、プログラム期間は数カ月で、その間の支援には限界があります。プログラム後のフォローアップもしていますが、その後の成長に至るまでの支援方法は確立したものがない、というのが正直なところです。

実は、SIAを運営している団体とソーシャルインパクトレポートも現在制作しています。スタートアップ支援には変数が多いので、それらを分析し、ゆくゆくは社会起業家支援におけるロジックモデルを作りたいです。これからも社会課題解決というビジョンはぶらさずに、スタートアップを支援していきます。


白川 裕也(しらかわ ゆうや)

仙台市経済局産業政策部産業振興課創業支援係長。東北の地域経済を活性化するような仕事がしたいと考えていたところ、当時の仙台市長が「仙台には東北の地域経済をけん引する役割がある!」とお話されていた言葉に共感し、仙台市へ入庁。
仙台市は100万都市でありながら、海、山、川、温泉、食など地域資源が豊かで、緑が多く暮らしやすいところです。嫌いなところは特にないのですが、発信力が弱いところがあるなと感じています。魅力的な街で、東北全体との近さも強みなので、仙台・東北の良さをもっと発信していきたいですね。


酒井 秀典(さかい ひでのり)

仙台市経済局産業政策部産業振興課創業支援係主事。国の機関である財務省東北財務局から地域連携推進の一環として、現在仙台市に出向中。財務局目線で起業支援の力になれることは何かを考え、日々業務に取り組んでいます! 
仙台市の好きなところは街中の至る所で緑を感じられるところです。心が安らぎます。仙台市の嫌いなところを強いてあげるとすれば、仙台には東北中の美味しいものが集まっていてつい食べ過ぎてしまうので、体型維持が難しいところです。


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