レポート

福利厚生でスタートアップを応援する。miive・栗田氏に聞く

組織の生産性や従業員の定着のために、スタートアップにとっても、福利厚生は重要である。しかし、なかなかそこまで手が回らないという現実もある。

そこで、スタートアップに対して新しい形の福利厚生サービスを展開しているスタートアップがある。株式会社miive(ミーブ)だ。福利厚生が「ポイント」として付与されたVISAブランドのプリペイドカードを従業員に渡すことで、従業員が気軽に企業独自の福利厚生を利用することができる。

今回はmiive代表の栗田 廉さんに、スタートアップと福利厚生について、福利厚生制度の変遷や効果、スタートアップがどのように福利厚生を活用すればよいのかといった点など、幅広く伺った。

日本における福利厚生サービスの変遷

──日本における福利厚生サービスの変遷についてお伺いできますでしょうか。

栗田:日本では給与・賞与以外で企業が従業員をサポートするための制度をまとめて福利厚生と呼びます。日本は福利厚生の先進国です。諸外国に比べても、どの企業でも比較的充実した福利厚生サービスが整えられています。

理由は、一言で言うと、日本型の経営システム、とくに終身雇用システムのためです。従業員は「会社人間」としてモーレツに働き、企業は従業員に仕事へ集中できる環境の整備と、彼らの貢献に報いるべく、社員寮や保養所などの手厚い福利厚生サービスを提供する、といったモデルがかつてありました。その中で、企業ごとに福利厚生制度が整備されてきました。

1990年代後半からは新しいタイプの福利厚生サービスが出てきました。それは、保養所などのリプレイスとなるような福利厚生をサブスクリプションサービスとして多くの企業に提供するタイプのものです。これにより各社で対応が必要となっていた施設整備などにかかる費用が抑えられるため、今でも福利厚生市場は、サブスクリプション型サービスを提供する数社による寡占市場となっています。

──海外の福利厚生についてはどうなんでしょう。

栗田:もちろん、日本と同様に離職防止のための福利厚生はあります。ただ、GoogleやMeta(Facebook)などのアメリカの先端IT企業が提供する福利厚生サービスは、従来の日本企業の福利厚生とは目的が違います。例えば、オフィスで卓球ができる環境があったり気軽にランチができたりする食堂があったりします。これは従業員同士のコミュニケーションを活性化して組織へのエンゲージメントを高める狙いがあります。

最近では日本のITメガベンチャーのような企業でも、従業員に報いるためだけではなく、従業員同士のコミュニケーションを引き起こしたり活性化したりするための施策として福利厚生が積極的に導入されるようになりました。

──福利厚生業界において、最先端のサービスはどのようなものですか。

栗田:新しいタイプの社食サービスやリモートワークの設備支援など、個別の福利厚生を「点」で支援するサービスがさまざまに出てきました。

現状、miiveが提供するようなプリペイドカード型の福利厚生サービスのように、包括的に福利厚生を支援する「線」のタイプのサービスは前例がありません。

福利厚生には本当に効果があるのか?

──福利厚生サービスが従業員満足度の向上に「役立ちそう」なことはわかりますが、実際に効果があるのかどうかが知りたいです。

栗田:山梨大学教育人間科学部教授の西久保浩二さんの研究で、従業員の方の「定着性」「勤勉性」「貢献意欲」の全ての項目において、福利厚生の利用回数が統計的に有意に影響することがわかっています。また、福利厚生制度の種類が多いことも、自発的な離職率を抑制するそうです。

つまり、福利厚生サービスは、実際に従業員が恩恵を選べる制度があり、選べる数が多ければ多いほど、利用した数が多いほど、従業員の定着率をアップさせるわけです。企業と従業員との間で返報性の原理が働くのでしょう。さらに調査では、福利厚生は、給与の約5%程度の費用負担で結果が得られると証明されているので、費用対効果も非常に高いと言えるのではないでしょうか。

──大企業と比べてスタートアップは福利厚生が薄くなってしまいがちですが、やはり重要ということですね。

栗田:はい。ですが、スタートアップのような中小企業が定着率などの向上のために多様な福利厚生を導入しようにも、制度設計や運用、経費精算が大変です。そのため、現状は大企業とスタートアップの間に福利厚生の格差が生まれやすいと考えています。

そのため、miiveはメインターゲットをスタートアップも含む中小企業として、福利厚生の格差解消を目指しています。

miiveとはどんなサービスか

──そもそも、どうして栗田さんは福利厚生の領域で起業されたのですか。

私の家庭は母子家庭で、母親が平日・休日、昼夜問わず働いていました。決して裕福な家庭ではありませんでしたが、有難いことに私は大学に進学することができました。
自身が貧しかった経験から、「全ての人を豊かにしたい」という思いで、起業を志しました。学生時代に起業を志しながらも一度就職活動をしたのです。しかし、いくつかの会社を見ていくうちに、現在の福利厚生制度に強烈な違和感を感じました。そこで「旧態依然とした福利厚生の体験を変えることで、就職活動を始める前に目指していた“より豊かな社会”を作れるのではないか」というインスピレーションが湧き、miiveの創業に至ります。国全体を豊かにする方法として、人の流動性を高めて企業の生産性を上げる方法もあるでしょう。しかし、日本は労働法上、簡単に流動性を高められない以上、今雇用されている人たちが頑張れる環境づくりに着目しました。

──なるほど。それで福利厚生に注目されたのですね。miiveのサービスはどういうものですか。

栗田:miiveの提供する福利厚生サービスは、さまざまな福利厚生を従業員に「ポイント」として提供できるVISAのプリペイドカードです。従業員としてはVISA加盟店であれば食事、ショッピング、心身のヘルスケア、育児・介護といったどのようなサービスでも気軽に利用可能ですし、企業としては予算を柔軟に設計しつつも育児・介護のような多様なライフスタイルや働き方・ニーズに対応した制度の設計によるコミュニケーション促進、および細かな精算の手間が省けます。企業側が従業員に使ってほしいサービスにだけポイントを使えるようにすることもできます。

──従業員の方が使途を自由に決められると満足度が高そうです。

栗田:miiveは導入していただいている企業の従業員の90%以上に毎月利用されています。3人のうち2人の従業員は月4回以上も利用してくださっています。先ほど話した、従業員の定着率や貢献意欲が上がる「選べる数が多い」「利用する数が多い」という2つのポイントを実現している福利厚生サービスです。

スタートアップにおすすめの福利厚生設計

──miiveの活用例について教えてください。

栗田:例えば、リモートワークを支援する制度や、チームビルディングのための食事会の費用としてポイントを利用するなどでしょうか。「ウェルカムランチ」にポイントを使われているスタートアップがあります。新しい従業員が入社した際の歓迎会ランチですね。

「シャッフルランチ」と呼ばれるものもあります。部署が違う従業員同士でランチをする際にポイントを使って、部署間のコミュニケーションを活性化させるものです。

──miiveを導入するタイミングはいつ頃が最適なのでしょうか。

栗田:もちろん人的資本に対する想いを持っているならすぐにでも導入していただけたら嬉しいですが、組織の人数が20〜30人程度になってきて、代表1人で従業員と密なコミュニケーションを取るのが難しくなってきたあたりで導入するのが1つの正解かな、と思います。「ウェルカムランチ」などの施策を通して、代表対従業員1人1人ではなく、従業員同士の自発的なコミュニケーションを促進することで組織へのエンゲージメントを高められます。

コロナ禍を経て、リモートワークが増えましたよね。そうすると、従業員の方同士の関係性も希薄になりがちです。スタートアップに転職されてくるような方って、ただでさえ転職志向の強い方が多いと思います。会社との接点が減ることで帰属意識が低下したり、コミュニケーションが希薄なせいで退職する人が増えたりしてもおかしくありません。

福利厚生と聞くと「保養所」「利用しづらい」といった古いネガティブなイメージが日本にはまだ残っていると感じます。でも、福利厚生には企業内の課題を解決したり対策になったりする力があることを起業家の方には知っていただきたいです。miiveのような企業も従業員も利用しやすい福利厚生サービスを、ぜひ組織力向上のために活用してみてください。


栗田 廉(くりた れん)

株式会社miive代表取締役CEO。南山大学卒業。大学在学中より起業を見据えてプロダクト開発を実施。社会勉強も兼ねて参加した就職活動時の「福利厚生」への違和感から、2020年にmiiveを創業。現在は従業員の生活を支えるEX(従業員体験)プラットフォーム「miive」を展開。日本の閉塞感を打ち破る「働く」の未来を創造すべく事業を拡大中。
株式会社miive


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