レポート

経営と家庭を両立させるには?ファミワン石川氏の2つの顔──妊活の悩みをきっかけに起業。経営と家庭を両立させる流儀とは

スタートアップ経営者であっても、家庭はある。ハードワークなイメージがある経営者。いかに仕事と家庭を両立させるかは、人知れず多くの経営者が悩んでいるのではないか。

妊活コンシェルジュサービス「ファミワン」を運営する石川勇介さんは、自身が妊活に悩まされた経験から創業。現在では3万人を超える妊活に悩むユーザーをサポートしている。

これまで家庭について悩む経験が多かった石川さんにだからこそ聞いてみたい、仕事と家庭を両立するポイントや、適切なバランスの取り方などを伺った。

妊活に悩んでいる人は意外と多い

──ご自身も妊活に悩まれていた経験から創業されたそうですが、妊活に悩んでいる人は多いのでしょうか。

石川:そうですね。周囲に話さない当事者が多いだけでたくさんの方が悩みを抱えています。私が妊活で悩んでいた当時も、なんとなく周囲に話しにくい雰囲気はありました。周囲に話して解決することばかりではないですが、当事者が相談しにくい状況をなんとかしたいと思い、ファミワンを創業しました。

実は、日本の子どもの14人に1人は体外受精で生まれてくるんです。学校のクラスで例えると、1クラス30人であればそのうち2人は体外受精で生まれてくるわけですから、それなりに数は多いですよね。体外受精までいかなくとも、タイミング法や人工授精などで通院している人も含めれば、妊活に悩んでいる人の割合は想像以上に高いことがおわかりいただけるのではないでしょうか。

──石川さんご自身は当時「相談しなかった」とのことですが、妊活に悩んでいる場合は相談したほうがよいのでしょうか。

石川:必ずしも相談したほうがベターというわけでもないんですよね。人によります。医療についての正しい知識や夫婦で話し合いができるのであれば相談しなくても大丈夫です。

正しい医療の知識がないことで、自分が信じたい情報しか信じずに、適切な妊活ができていないケースもあります。「子どもは授かりものだから」と考えて、待ちの姿勢でいる方もいらっしゃいますが、妊活の知識に不安がある場合には、しかるべき手段で相談することをおすすめしたいです。

──そもそも、妊活の正しい情報がどこにあるのかわからない方も多そうですね。

石川:まさにその悩みが私の創業のきっかけでした。私が妊活で悩んでいた当時、ちょうど医療系の企業に勤めていたので、ウェブで検索しても正しい情報が出てこないことに気づきました。そこで、「正しい妊活の情報を提供したい」ということで、ファミワンのサービスを始めたんです。

病院に行って聞いてもいいのですが、そこに行くまでにはハードルがありますよね。当事者をつなぐNPOなどもありますが、そこに参加するにも同じくハードルがある。妊活というテーマは、気軽に話せる相手がいないんですよね。恋愛や仕事の悩みのように、友人にも話しづらい問題ですから。

実際に、ファミワンのサービスを始めたところ、「こういうサービスが欲しかったんです」と涙を流して喜ばれるユーザーの方もいらっしゃいました。現在では3万人以上の方にお使いいただいています。

経営のために家庭を犠牲にする必要はない

──スタートアップの経営と家庭の両立は非常に難しいことなのではないか、と思われます。家庭にいても仕事のことを考えなければならない場面も多いのではないでしょうか。

石川:確かに、常に仕事に追われてはいます。きちんとメリハリをつけないと家庭のことができないので、「この時間は仕事をする」「この時間は携帯でメールをチェックする」、逆に「この時間は仕事しない」などと決めてしまっています。もちろん決めたとおりに進むばかりではないですが、そうやってオフの時間を決めて作ると切り替えができますね。やっぱり家庭にいると安らげます。

──会社のメンバーと家族、それぞれ石川さんにとってどのような存在なのでしょうか。

石川:会社にはビジョンとミッションがあるので、それをどう達成していくか、ゴールのことも考えなければいけません。なので、「同志」といったイメージですかね。経営者として、社会に対してどう価値提供をしていくのか、同時に売上をどう作っていくのかなどを一緒に考え、実行していく仲間です。

一方、家族は「同志」ではありません。見返りを求めることもありません。会社であれば、やはり数字を達成しなければならない面があるので、「見返り」ということを考えなければならない面もありますが、家族はそうではないですよね。そういったこととは、別次元の存在です。

──会社と家庭で、共通する部分はあるのでしょうか。

石川:「とりあえずやってみる」という姿勢は一緒かもしれないですね。会社の場合、そこに結果を求めますが、家庭ではそうではない、という違いはあります。

例えば仕事では、「これをやったら、こうなる」というイメージを考えて行動します。新サービスをリリースしたら、売上がこれくらいになる、とかそういった話ですね。逆に家庭では、まずやってみる。それだけです。子どもがやりたい習い事があれば、「とりあえずやってみようか」で決めます。

──妊活もそうだと思うのですが、経営者だけでなく、最近のビジネスパーソンは常に忙しいので家庭との両立が大変になってきていると感じます。そのなかで、「仕事に専念したいから、家庭は諦めよう」と考えている方も増えてきていると感じます。その点について、どうお考えになりますか。

石川:「家庭」という一見安定しているように見える環境においても、不安は常にはあります。妊活も大変でしたが、いざ子どもを授かると、今度は出産が不安になる。生まれたら生まれたで、今度は子育てが不安になる。そうやって不安の対象、大変さの対象は移り変わっていくんですね。

でも、経営も妊活も子育ても、いくら準備したところで、それぞれのステップで最適なアプローチが取れるとは限りません。そして、最適なアプローチがとれたとしても、そもそもそれがその人の人生にとって良いことなのか、というと、決してそうとは言い切れないと思うんです。例えば、経営について必要なスキルを全て学んでから起業しようとすると、何年かかっても足りないのではないでしょうか。妊活も子育てもそうです。正しい知識を全て身につけてから妊活や子育てを始める、というのは現実的ではありません。

だからこそ、まずは一歩踏み出してみて、走りながら学ぶ、というのがいいのではないでしょうか。経営も妊活も子育ても。

──起業するなら「“仕事に全てを捧げないと成功しない”神話」があると感じていますが、その点についてはどうですか。

石川:毎日24時間、経営のために時間を費やしたら必ず成功するかというと、そうではありませんよね。もしそうなら、成功している経営者はたくさんいるはずですし、みんなそうしていると思います。実際に24時間働いても失敗する人はいます。だから、人それぞれだと思うんですよね。それに、人生の一時期を仕事だけに捧げて、最終的に失敗したとしたら、「起業しなければもっと別の人生を送れたのに」と後悔するはずです。起業の失敗も、キャリアの上ではプラスになると思いますが、仕事の以外をすべて排除してきた年月で、人生でどんな意味があったかを考えると、それが正解かは誰にもわかりません。また、逆に「家庭があるから頑張れる」ということもあるはずなので、「家庭が欲しい」「子どもが欲しい」という気持ちがあるなら、経営と並行して準備を進めてみてはいかがでしょうか。

頼れるところは、頼ろう

──子どもを生んで育てていきたいと考える経営者やビジネスパーソンに、何かアドバイスはありますか。

石川:まず、実際に子どもが生まれてくると、「子どもがいることの良さ」がわかります。だからこそ、私は事業として、「子どもがほしい」という思いがある方をより一層全力でサポートしていこうと強く思うことができます。どんなサービスでも最終的に使うのは「人」なので、自分に子どもがいることが、自分の事業推進の活力になることもあるのではないでしょうか。

もう一つあります。子どもがいると、急に熱を出したり、泣き出したり、突発的なトラブルがしょっちゅう起きるんですね。そこに対応できる体制を作っておく必要はあるという点ですね。弊社の場合、社員の子どもに何かあったときには、他の社員とともに助け合える環境づくりを普段から意識しています。

例えば社外でも、家事代行サービス等どんどん使っていいと思います。そうやって、頼れるところは頼っていく姿勢が大事かなと思います。なんでも一人でやろうとすると、仕事と家庭の両立は難しくなりますから。

──実態以上に「子育てが大変そう」というイメージを強く持っている方もいるのではないでしょうか。

石川:そうかもしれません。ただ実際にやってみると、意外と乗り切れるものですよ。まずは一歩、踏み出してみてください。

──起業をしながら子育てをするのは、配偶者も不安なのではないでしょうか。

石川:そうですね。だから私の場合、不定期に事業の現状について妻にプレゼンして、「だから大丈夫」と納得してもらうようにしています(笑)。ポジティブな情報が多めになりますが、やっぱりに安心してもらうために説明したほうがいいとは思いますね。

──経営と家庭以外の「3つ目の顔」はお持ちですか。

石川:食べることと飲むことが好きで、よく飲みに行っています。すごく疲れているときには、ラーメンを食べに行ったりもしますね。二郎にもよく通っています。料理も好きで、子どもを寝かしつけた後の深夜に、急に料理し始めたりもします(笑)。深夜に料理すると、一人だけの時間が作れて、いい気分転換になるんですよ。


石川 勇介(いしかわ ゆうすけ)

愛知県犬山市出身。慶應義塾大学を卒業後、ワークスアプリケーションズやエムスリーなどを経て、自身も経験した妊活・不妊治療を取り巻く社会課題を解決するために、2015年6月に株式会社ファミワンを創業。LINEを活用したパーソナルサポートサービス「妊活コンシェルジュ ファミワン」では、看護師や心理士、培養士などの専門家チームから継続的にアドバイスを受け取ることができる。小田急電鉄やTBS厚生会などの企業への福利厚生提供、長崎県や神奈川県横須賀市などへの自治体連携、そして医療機関との共同研究やテレビドラマの監修など、様々な展開を実施。家庭では優しい長男と元気な長女の父親。
株式会社ファミワン

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