レポート

社会起業家に資金調達について聞いてみた!
~資金調達を超えた起業家と投資家のよい関係~

左から 一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF)加藤有也氏、株式会社ヘラルボニー 松田崇弥氏、日本財団 ソーシャルイノベーション推進チーム 前田佳菜絵

事業を成長させるためには避けて通れない「資金調達」。「まだ実績を出していない」「成果をあげるまでに時間がかかる」「そのビジネスよりこっちの方が儲からないか?」などなど、社会課題解決を目指すシード期のスタートアップには悩みがつきまとう。

ソーシャルスタートアップが資金を得るためには、一体何が重要なのか。また、投資家はどのような観点から投資を行っているのか。日本財団・前田佳菜絵が、“起業家”と“投資家”という異なる立場の2人から、ソーシャルスタートアップの資金調達について掘り下げる。


株式会社ヘラルボニー 松田 崇弥氏

投資を受けた人:松田 崇弥

株式会社ヘラルボニー 
「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ(以下、SCM)」第1期に参加。


一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF) 加藤 有也氏

投資した人:加藤 有也

一般財団法人 社会変革推進財団(SIIF)
ヘラルボニーへの「インパクト投資」を実施。


日本財団 ソーシャルイノベーション推進チーム 前田 佳菜絵

話を掘り下げる人:前田 佳菜絵

日本財団 ソーシャルイノベーション推進チーム 
スタートアップ支援プロジェクトを担当。「日本財団ソーシャルチェンジメーカーズ(以下、SCM)」の運営にも携わる。


「投資家にとって重要な指標は、起業家が楽しそうかどうかだ」

話をする松田 崇弥氏

前田:ヘラルボニーは、本当に創業したての頃にSCMに参加されましたよね。

松田:はい。ヘラルボニーが創業してまだ8ヶ月目というタイミングで、SCM第1期に参加させていただきました。今でこそ、「このくらいの市場規模を目指す」「このビジネスモデルで成長していく」と明示することができますが、当時は資金調達とは何かもわかっていない状態でした。

株式会社ヘラルボニー

「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット。先入観や常識というボーダーを超え、さまざまな「異彩」を、さまざまな形で社会に送り届け、福祉を起点に新たな文化をつくりだしていくことを目指している。

代表取締役社長・松田崇弥氏、代表取締役副社長・文登氏は双子の兄弟で、自閉症という先天性の障害がある兄(翔太氏)を持つ。社名の「ヘラルボニー」は、7歳のときに翔太氏がノートに記した言葉から命名。事業を通し、「知的障害=欠落」というイメージの変容に挑戦する。

前田:SIIFがヘラルボニーへの出資を検討するきっかけの一つとなったのが、SCMのデモデイに行ったプレゼンテーションだったかと思います。どのようなことを意識してプレゼンをしたのでしょうか。

松田: SCMの講師に2つのアドバイスをいただき、それを意識していました。

1つ目は、「自分たちが楽しんで取り組んでいることを伝える」ということ。
実は、プレゼンテーションを練り、SCMの同期と指摘し合うなかで、「社員プロフィールをもっと格好よく表現し、経歴をアピールした方がいいのでは」という意見をもらいました。でも講師の方は、「それよりも投資家にとって重要な指標は、起業家が楽しそうかどうかだ」と言ってくださって。自分たちのいつもの表情が写ったプロフィール写真をそのまま使うことにしました。

ヘラルボニーの様子

松田:2つ目は、「一発で心をつかむこと」。
双子の兄と2人で登壇したのですが、最初にバッと傘を開き、ヘラルボニーのアートワークを見ていただくことから始めました。「印象に残ること」「思いを伝えること」を重視してプレゼンテーションを行いました。

デモデイで傘を掲げる松田さん(写真左)と、副社長の松田文登さん(写真右)


前田:会場の方たちからも、とても好評でしたね。デモデイ当日、どのチームのプレゼンが一番好きだったかを会場の方から集計したのですが、ヘラルボニーがトップでした。

インパクト投資が、社会起業家の資金調達の選択肢となるように

前田:加藤さん、SIIFがインパクト投資として、ヘラルボニーを「出資に足る」と判断したのはどのあたりでしょう。

話をする加藤 有也氏

SIIF(社会変革推進財団)

新たな経済の仕組みを作ることにより、社会課題を解決することを目指す。インパクト投資においては、日本のエコシステム構築の中心的な役割を担い、インパクト投資に取り組む人材や組織の育成も行う。

加藤:ベンチャーキャピタルなどが実施する一般的な投資では、リスクの評価、リターンの期待という2つの軸で投資判断を行います。私たちが行っている「インパクト投資」では、これら2つに加えて、「事業の成長によってどの程度の社会的もしくは環境的インパクトを期待できるか」というインパクト軸でも事業性を評価することになります。わかりやすく言えば、「一般的な投資と寄付の真ん中」でしょうか。一般的な投資は財務リターンを追いますが、寄付はリターンがなくても問題ありません。

投資判断の軸 一般的な投資=リスク評価+リターンの期待 インパクト投資=リスク評価+リターンの期待+社会的/環境的インパクトの期待

加藤:SCM参加企業のために決めた投資方針は、「事業がきちんと継続でき、社会にインパクトを与え続けられること」というものです。ヘラルボニーさんの場合、インパクト部分は十分に基準を充たしていますから、一般的な事業性のリスク・リターン評価を行った上で投資を決めました。

前田:「ヘラルボニーなら大丈夫だ」と確信できた理由はどこにあるのでしょう。

加藤:シード投資で最終的によりどころになるのは、事業を立ち上げ、組織を作っていく創業者という「人」です。それは、インパクト投資であってもなくても変わりません。私は、松田さんを「ぶれない人」だなと感じました。出資後もいろいろな壁にぶつかりながらも、軸は常に「信念」に置いており、福祉を起点に新たな文化を作っていくという起業時の想いが明確です。そして、その上で柔軟性があり、成長が見込めない事業に対して撤退する判断力もあります。「軸はブレないが、事業の方向性を軌道修正できる」というのは、すばらしい強みです。

前田:なるほど。社会起業家にとって、自分たちの信念を理解してくれる投資家との出会いはとても重要ですね。

加藤:はい。これは投資側の課題なのですが、現在の日本では、社会起業家の悩みに応えられる投資は、まだあまり普及していません。

ベンチャーキャピタルは「5年で10倍」といったリターンを期待できなければ、構造的に投資できません。高いリターンを約束して投資家からお金を集めているからです。
銀行からの融資では、決められた金額とスケジュールで返済しなければならないので、不確実性の高い社会起業家にとってはハードルが高くなります。また、助成金は必ずしも先に受け取れるとは限らず、持ち出しが発生することもあります。

私たちは、インパクト投資が社会起業家の当たり前になるように、もっと認知度を高めていきたいと考えています。ヘラルボニーは、その成功例の一つに育ちつつあり、投資家の立場で関わらせていただいている私自身もワクワクしています。

 社会へのインパクトを可視化する

前田:SIIFは資金提供のほかに伴走支援も行っているとのことですが、松田さんからみて、伴走支援から得たことはなんですか?

松田:SIIFさんに伴走支援をいただいてから8ヶ月の間、企業として大きく成長できたと感じています。会計周りを整え、市場規模を把握し、自分たちが次にどんな世界を目指すのかを決めて進むことができるようになりました。

特に大きかったのは、ロジックモデルを作成し、事業が社会に与えるインパクトを可視化できたことです。ロジックモデルは、事業と社会的価値の因果関係を示したものです。ヘラルボニーでは、SIIFさんからのアドバイスもいただきながら、“自分たちが社会的インパクトを追求することで、会社としての利益も上がる”というモデルを作成しました。

ヘラルボニーのロジックモデル
(※ロジックモデルとは、最終的に目指す社会の変化や事業の効果の実現に向けた筋道を図示した、インパクト戦略の設計図。事業パートナーや投資家などへの対外的な説明や、経営改善、組織作りのPDCAに活用される。)


加藤:SDGsやESG投資などの知名度が高まっていくなかで、“良いことをしている感”を演出し、アピールする企業も出てきていると思います。それと「本物」の違いは、社会的インパクトを生み出す戦略を持ち、成果を可視化し、測れる状態にしているかどうかです。

定量化までできれば理想ですが、まずは定性的な情報、たとえば課題当事者の言葉や当事者に関わるステークホルダーの声を集め、事業が本当に社会を変えることにつながっていることを示すことからでも、インパクトのデータを集め、経営に活かすことが大切です。

松田:このロジックモデルの内容は、適宜アップデートしています。社会的指標を可視化したことによって、自分たちの目指す方向がよりわかりやすくなり、経済的指標を掲げるよりも社員のモチベーションが高まったと感じています。

SCMに参加するまで、いわゆる出口戦略を考えたこともありませんでした。しかし、いまは会社が成長することで、もっと社会にインパクトを与えられるのでは、と考えられるようになりました。日本財団とSIIFには、本当に感謝しています。

前田:ありがとうございます!

「とにかく打席に立って一度はバットを振る」ことが大事

談笑する3人

前田:松田さんは、投資された資金をどのように活用されましたか。

松田:ものづくりへの活用が中心です。ヘラルボニーは、企業とのコラボレーションのほかにも、プロダクトを作って販売する事業を展開しています。プロダクトのラインナップを増やし、在庫を用意するための資金が必要でした。店舗も増やしましたが、コロナ禍の影響もあって厳しい状況で、計画は常に見直しています。

前田:加藤さんたちがスタートアップに投資する場合、どの程度のリスクを許容するのでしょう。店舗販売が思うようにいかない状況を見ていたわけですが、投資家としてどのようにアドバイスしましたか。

加藤:特に小売りのような消費者向けの事業は、やってみないとわからない部分は大きいです。さまざまな事業の種があるなかで、どれが成功に続く道なのかを見つけるには、「打席に立って一回バットを振ってくる」しかない場合もあります。事業のことを一番考えているのは起業家の方ご自身ですし、その人を信じて投資したわけですから、よっぽど典型的な失敗パターンに陥っているのではない限り、投資家が安易に口を挟むべきではないと考えています。

もちろん、事業の状況や見通し、そして見直す部分などについては、すべてお伝えいただいており、私たちの事業評価も適切なタイミングで行っています。
SIIFは原資が助成金ということもあり、投資家でありながら起業家の立場に100%寄り沿うことができる、数少ない組織の一つです。「起業家の信念を実現する」ために一番よい道筋は何かを考え、必要な時はアドバイスをさせていただいています。

アーティストの作品をこだわりのファッションプロダクトに仕上げ、店舗やオンライン(※)にて販売している。


前田:最後に、投資判断の時期がコロナ禍と重なりましたが、苦労された点などはありましたか。

加藤:投資を決めるまで、出資対象の起業家に一度もお会いしなかったのは初めてです。その代わりオンラインでは何度もミーティングを重ね、週に1度はオンライン上でお会いしていましたね。リアルに会わない中で確信を持てるかどうかというチャレンジでした(笑)。

松田:投資いただける上限金額なども「だいたいこれくらいで」とオンラインでお伝えいただきました。「それなら全部ください」と正直に言ってしまって……(笑)

加藤:経営者はそれくらいでいいんじゃないでしょうか(笑)。だいたいの金額は、組織やチームの基準で決められるので、私たちもそれを正直にお伝えしていました。

笑顔で話す前田 佳菜絵氏

前田:そうだったんですね(笑)

現在(2021年4月)SCMは4期目がスタートしたばかりで、今期も魅力的なソーシャルスタートアップが集まっています。日本財団としては、このプロジェクトを通じて、SIIFのような投資家とのマッチングを推進していきながら、ヘラルボニーに続くような社会起業家を支援して、もっとスタートアップが社会課題に取り組みやすくなるように頑張ります。

※HERALBONY 公式オンラインストアはこちら


松田 崇弥氏 株式会社ヘラルボニー / 代表取締役社長 チーフ・エグゼクティブ・オフィサー

松田 崇弥

株式会社ヘラルボニー / 代表取締役社長 チーフ・エグゼクティブ・オフィサー。小山薫堂氏が率いる企画会社オレンジ・アンド・パートナーズ、プランナーを経て独立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニットを通じて、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。知的障害のある方々のためのディズニーランドのようなハブをつくることも計画中。誕生したばかりの娘を溺愛する日々。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30 JAPAN」受賞。日本オープンイノベーション大賞「環境大臣賞」受賞。
https://www.heralbony.jp

紹介ページはこちら


加藤 有也氏 SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)事業本部 インパクト・オフィサー

加藤 有也

SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)事業本部 インパクト・オフィサー。総合出版社にて海外版権事業や国内外関連会社の設立・経営企画に従事したのち、CVCの設立・運営およびベンチャー企業との資本業務提携に携わる。2019年4月よりSIIFに参画。社会起業家支援の担当となってヘラルボニーのことを知り、妻とともにヘラルボニーのスカーフを即買いするファンに。起業家の皆さんの変化とそのスピード感を近くで目の当たりできることが、投資家として何よりうれしい。
家庭内では2男の父親。コロナ禍でフルリモート勤務となったことから、料理を開始。夕食担当で、家族に好評だったのは、メンチカツ、から揚げ、肉じゃが。
https://www.siif.or.jp


前田 佳菜絵 日本財団 経営企画部広報部 ソーシャルイノベーション推進チーム

前田 佳菜絵

日本財団 経営企画部広報部 ソーシャルイノベーション推進チーム。2019年4月に日本財団に新卒で入会。大学時代のスタートアップでのインターンシップ経験を生かしながら、スタートアップ支援プロジェクトを担当。SCMには1期から携わっており、(勝手ながら)ともに成長してきた「同級生」として、ヘラルボニーを応援している。


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