レポート

【社会起業家向け】あなたに合ったアクセラの見つけ方

起業時の成長を「加速(アクセラレート)」させるために、多くのスタートアップが参加している「アクセラレータープログラム」。通称アクセラ。国内で開催されているだけでも、その数は70団体以上(※1)にのぼる。
数あるアクセラの中から、自社にあったものを見つけるのは至難のわざ。特に社会課題に取り組むスタートアップは、アクセラをどうやって選べばいいのか?

※1 CODE REPUBLIC「国内アクセラレーターカオスマップ2020年版」参考


はじめ
はじめ

はじめ:卒業後の進路を検討中の大学院生。起業の意欲アリ。
都内某大学農学部卒。バイオマス研究に取り組んでいる大学院生。実家は焼き鳥屋を経営。自身の研究を活かして食糧廃棄問題を解決したいと思い、起業を検討中。アクセラレーターに参加してみたいが、どうやって選べばいいのか分からず、先輩のあかりさんに相談することに。

あかり
あかり

あかり:「教育機会の不平等」解消にチャレンジする先輩起業家
自身も苦労して大学に入学した経験などから、教育機会の不平等を意識するように。大学卒業後、友人と一緒に学習塾を開業するも、3年で廃業。現在はオンライン教育スペース事業を運営。自身の起業経験をもとに、はじめ君を応援したい。



はじめ
はじめ

今日は、あかりさんに、ちょっとご相談が・・・。

あかり
あかり

なになに? お金なら無いよ(笑)

はじめ
はじめ

いやいや、それはそれでいつかご相談したいんですが(笑)

いま起業を考えていて、とりあえずアクセラに参加したいと思っているんです。でもたくさんあり過ぎて、どこを選んだらいいのか悩んじゃって。

あかり
あかり

そうなんだ! 私もアクセラで、応援してくれる人と出会ったり、事業アイデアをブラッシュアップした経験があるよ。
どんなアクセラを選べばいいか迷う気持ち、よくわかるなあ。

はじめ君は、どんな事業内容で起業を考えてるの?

はじめ
はじめ

大学で研究してきたバイオマスの技術を生かして、「廃棄食材をエネルギーに活かす」取り組みをしたいって考えているんです。実家の焼き鳥屋の手伝いをしていても、毎日どうしても廃棄食材が出てしまうのがもったいなくて。

廃棄食材を無駄なくエネルギーに活用できる循環型プロダクトを開発して、世界的な「食品ロス問題」や「温暖化問題」の課題解決につなげたいと思っています。

あかり
あかり

なるほど。ちなみにアクセラはどの辺を検討してる?

はじめ
はじめ

いま、気になるところが5つあって、どこもよさそうなんですよね。

あかり
あかり

うーん。私もあまりよく知らないプログラムが多いな(笑)

はじめ
はじめ

えっ?!

あかり
あかり

あはは(笑)でも安心して! アクセラを選ぶときは、「①対象ステージ」「②運営主体とその目的」「③相性」をチェックすればいいから。今日はヒマだから特別に一緒に考えてあげる。

アクセラの選び方①:対象ステージを確認する

あかり
あかり

こういう図は見たことある?

日経BP「スタートアップ投資ガイドブック」参考
はじめ
はじめ

いや見たことないですね…売上高と時間の経過が軸ということは、スタートアップの成長を表したものですか?

あかり
あかり

そのとおり。スタートアップがこのように大幅に売上高を伸ばしたいとき、資金調達が鍵になる。そしてスタートアップは資金調達規模などでいくつかのステージに分けることができる。
アクセラに参加するときには、まず、プログラムが自分のステージを対象としているかを確認することが大事。

はじめ君はまだ資金調達をしていないよね?

はじめ
はじめ

はい。なんとなくアイデアや技術の知識はあるけれど、まだ事業内容は固まっていないので。

一番左のスタート地点って感じです。

あかり
あかり

つまりはシード期だね。

シード期は、
・アイデアから事業計画を立てる
・ビジネスモデルの仮説検証
・製品やサービスの開発、改善  

を繰り返す段階。

異なるステージのプログラムに参加してしまうと、せっかくの機会をうまく活かせない可能性があるわ。

はじめ
はじめ

さっき挙げた5つのアクセラは、”シード期を対象としている”もしくは、”ステージ不問”なので、自分にはばっちり合っていると思います!

あかり
あかり

一見そう見えるよね。でも実は、同じシード期対象でも、運営主体によって狙いが異なるって知ってた?

運営側が参加を期待するスタートアップ像を想像してみると、本当の対象がクリアに見えてくることがある。
次に、どんな運営主体が、どんな目的で開催しているかを見てみましょ。

アクセラレーターの選び方②:運営主体とその目的を確認する

あかり
あかり

改めて、はじめ君が挙げた5つのアクセラレーターを見て。
それぞれ、どんな目的でプログラムを開催しているかわかる?

はじめ
はじめ

え、みんなスタートアップの成長を支援するっていうのが目的なんじゃないんですか?

あかり
あかり

どの運営主体にも本音と建前があるのよ。
運営側が参加スタートアップにどんな成長を望み、どんなリターンを得ることを目的としているかという、“本音”を理解するのが大事なわけ。

はじめ
はじめ

“本音”ですか。

あかり
あかり

たとえば、【ベンチャーキャピタルA】は、積極的に投資を進めているね。

はじめ
はじめ

「資金調達」の機会を得やすくて、良さそうです。

あかり
あかり

ただ、その代わり「爆発的な成長」をスタートアップに求めている。
投資先のスタートアップが急激に伸びて、IPOやM&Aなどの「イグジット」をすれば、ベンチャーキャピタルAは大きなリターンを得られる。

はじめ
はじめ

ハイリスクハイリターンの投資スタイルなんですね。

あかり
あかり

だから「急成長してイグジットしたい」という起業家であれば【ベンチャーキャピタルA】を利用するのがいいかもね。

ただ、「社会課題解決を第一に、そこまでの急成長は望まない」「上場せず、こだわりをもって自分の裁量でミッションを達成していきたい」といった人には、合わない可能性もあるわけ。
私の周りにいる社会起業家も、「自分は望んでいないのに、資金調達をゴリゴリ迫られた」という話は、実は時々聞くのよ。

そういうズレを生まないためにも、自分たちがどこを目指して、どのように成長したいのかを明確にして、アクセラの運営主体との目的と合致しているのか確認すべきなの。

私の感覚では、こんな傾向があるかな。

あかり
あかり

・各運営主体の目的を自分の事業に活用できそうか
・急成長したいのか、安定的な成長をしたいのか
・社会的インパクト(※2)も重視しているか


という視点で確認するといいね。

はじめ
はじめ

なるほど、僕の場合「いかに利益を上げるか」だけじゃなくて、「社会的インパクト」も大事にしたいです。バイオマスによるエネルギー活用は、分野的に【B電力会社】のプログラムが合っているかな…と考えていたんですが、どうでしょう?

あかり
あかり

確かに、B電力会社は脱炭素に向けた新技術を持つスタートアップを探してる。
でも、事業会社あるあるなんだけど、出来る限り時間とコストをかけずに自社利益につなげていきたいと考えていることが多い。
だから、アクセラでも具体的なプロダクトや協業の提案が求められる。  
実質はサービス開発をほぼ終えたシード後半向けといえるね。

はじめ君には、まだ早いわ、きっと。
それに、「社会的インパクト」も大事にしたいわけだから、ちょっとミスマッチがあるかもね。

はじめ
はじめ

なるほど。自分は事業アイデアのつくり込みをしっかりやる段階ですね。

 

※2 社会的インパクト:環境や社会的課題に対するポジティブなインパクト(良い影響)

アクセラレーターの選び方③:相性を確認する

あかり
あかり

じゃあ、相性の確認も含めて、さらに候補を絞っていこうか。

はじめ
はじめ

相性って…これまたつかみどころの無い基準ですね。

あかり
あかり

アクセラの運営側も多くのスタートアップに応募してほしいから、Webサイトにはいいことしか書いてない場合が多いのよ。
私の独断と偏見で、チェックリストを作ってみたわ。
実際に参加した起業家仲間にぶっちゃけた話が聞けると、すごくいいんだけどね。情報収集が命よ。

はじめ
はじめ

いくつか気になるんですが、プログラム内容の「実践」ってどんなことですか?

あかり
あかり

たとえば、自分の事業を検証してみるワークショップの場がたくさんあるとか、プロダクトをPRするためのイベントの場があるとかね。
トライ&エラーの中で、いろんな視点を得やすいメリットがあるね。

はじめ
はじめ

なるほど。それから、熱意がないのにアクセラを開催する運営主体がいるんですか?

あかり
あかり

これがね、ここだけの話、時々聞くの。
私の友達が参加した事業会社系のアクセラは、プログラムを担当する担当者の熱意と役員が噛み合っていなかった

担当者が、協業に向けて前のめりでがんばっているのに役員の理解が得られなくて、社内決裁が進まない。
結果、プロジェクトがスタック、とかね。

「上層部だけ熱意がある」という逆パターンや、「時流に乗ってとりあえず開催してみたけどノウハウがない」というケースもあるね。

はじめ
はじめ

こういう実態は、やっぱり先輩参加者にコンタクトを取って確認してみる必要がありますね。

あかり
あかり

あと意外と影響が大きいのは「メンター」と、資金調達と講義以外の「支援の有無」かな。

起業したばかりで会社の知名度が低くても、その道のプロにメンターをお願いできる。    
ただ、実際に話してみないとどんな人か分からないからね。
アクセラが始まって、メンタリングを受ける中でどうしても相性があわなければ、プログラム担当者に相談してみるのも大事だと思うわ。

資金調達と講義以外の支援で言えば、広報かな。
プログラム卒業後も起業家の情報発信に力を入れてくれているところも結構あるの。
社会起業家にとって多くの人を巻き込むためのPRはとても重要だから、アクセラの運営側からの発信は助かるわよね。

社会的な信用にもつながるし、その情報を見た人が、考え方に共感してジョインした、という話も聞くよ。

仮説を立てて参加してみる

はじめ
はじめ

あかりさん、けっこうぶっちゃけたところを教えてくださってありがとうございました。
伺った話を参考に、自分なりに整理してみました。

はじめ
はじめ

今は、プロダクトアイデアや技術をブラッシュアップしながら事業計画を練っていく必要があるので、大学研究室を利用でき、研究者のコネクションを生かせる母校【C大学】のプログラム内容が、一番合っているんじゃないかと考えました。

ただ、それだけでは、人脈形成や資金調達に不安を感じるので、事業計画を固めつつ、【D市】や【NPO法人E】のプログラムにも、スケジュールを見ながらトライしていきたいです。

【B電力会社】は、今は保留。
事業を拡大していく段階になり、必要だと感じたら検討します。   
【ベンチャーキャピタルA】は方向性が異なるので、今のところ参加はないかな。

あかり
あかり

うん。いい感じだと思う。

仮説があれば、進みながら「仮説が正しいか」「間違っているか」を判断できるし、軌道修正もしやすいよ。

アクセラに参加して、「仮説が間違っていた(自分には合わない)」と感じた場合は、途中でも参加をやめる相談をしても良いと思うの。
その方が、主催者・スタートアップ双方にとって良い結果につながると思うな。

とりあえず進んでみて、何かわからないことがあったら連絡して。
気が向いたらまた相談に乗るわ。

はじめ
はじめ

ありがとうございます!

 

次回へ続く

 

※ 本記事は、スタートアップへのアンケートも参考に作成しています。
※ 文中に登場するアクセラレータープログラムは架空のものです。実在する、人物・団体とは一切関係ありません。

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