株式会社? NPO? 社会起業家のための「法人格」選択ガイド
「社会課題に取り組むために事業を始めたい!」と考えたとき、最初に悩むのが「法人格」。株式会社、合同会社、NPO…何を選べばよいのでしょうか。その後の意思決定や資金調達にも関わる法人格について解説します。
はじめ:事業計画が固まってきた。そろそろ「法人化」しなければ…
都内某大学農学部卒。バイオマス研究に取り組んでいる大学院生。
前回 先輩起業家のあかりにアクセラレーターの選び方を学び、社会起業家への道を進んでいる。
課題解決への目標を共有する研究仲間にも出会うことができ、そろそろ法人化しなければと思うが…
あかり:「社会起業家」仲間がどんどん育って欲しい…!
教育機会の平等を目指し、オンライン教育スペースを運営する起業家。現在は2社目の起業に当たる。
1社目を廃業した経験もあり、自身の起業家としての経験を伝えることで、後輩起業家の成長を応援したいと考えている。今は、後輩のはじめの起業を「ちょっと危なっかしいな」と思いつつ見守っている。
メンバーも集まってきたって聞いたけど、そろそろ「法人化」の準備は進めてる?
それが、法人格の違いがいまいちわからなくって。
「合同会社」が一番手続きが簡単で、コストも安いみたいなので、合同会社にしようかなと思っているんですが…。
なるほど…まだまだ起業に関する情報が足りてなさそうだね。
じゃあ、今日は法人格の違いについて教えてあげようか!
お、待ってました! よろしくお願いします!
法人と個人事業主、どちらで始める?
個人が事業を始める方法は、大きく分けると法人設立、個人事業主の2つがあるんだ。
個人事業主は税務署に開業届を出せばすぐ始められるよ。副業・複業をしたい人や、自分の裁量で進めたい人には向いているよね。
僕の場合は、個人事業主で進めるのは難しいですよね?
うん、はじめ君はプロダクトを作りたいんだよね。
資材を購入したり、販路をつくったりと、多くの人と仕事をしていくことになると思うから、法人格を持っていた方がいいと思うよ。
法人格があれば、事業を拡大したいと思ったときに資金調達もしやすいしね。
営利法人と非営利法人の選び方
法人格にもいろんな種類がありますよね。
大きく分けると、営利法人と非営利法人の2つ。
違いは、利益や残余財産の分配方法にあるんだ。
営利法人とは…?
まずは営利法人。
営利法人は、特定の構成員(社員や株主など)に利益を分配することができる法人のこと。事業が終わって解散するときも剰余金を構成員に分配できるんだよ。
ああ、さっき言っていた「残余財産の分配」というのは、そのことなんですね。
営利法人には、「株式会社」「合同会社」「合資会社」「合名会社」という4つの法人形態があるんだけど、「合資会社」や「合名会社」には無限責任という特徴があるから、スタートアップはあまり選ばないんだよね。
有限責任/無限責任とは
●有限責任
株式会社や合同会社の出資者は「有限責任」となる。有限責任の場合、もし会社が負債を抱えて倒産した場合、出資者は出資した額の範囲のみ責任を負う。それ以外の金銭的負担は負わない。
●無限責任
合名会社の社員は「無限責任」、合資会社は「無限責任社員」と「有限責任社員」を各1名ずつ置く必要がある。無限責任では、会社が負債を抱えて倒産した場合、すべての債務についての弁済義務を負う。
つまり無限責任だと、個人の資産を持ち出して弁済の義務を負う可能性も出てくるってことですね。それはちょっとリスクが大きいですね。
ただ、有限責任でもいきなり株式会社を立ち上げるのは怖いな~。
営利法人の中であれば、あとから法人格を変更をすることはできるよ。
例えば、合同会社で立ち上げた後に、株式会社に変更することも可能。
株式会社と合同会社の違いをまとめると、こんな感じだね。
合同会社は、設立時の費用や手間は株式会社と比べて少ないけれど、資金調達をしにくいというデメリットがあるんですね。
そう。あと、合同会社は「出資者=経営者」だから、設立後に経営にジョインしてもらうには、出資してもらい定款に記載して登記する必要があるの。
株式会社は、出資者・経営者・従業員といろんな参加の仕方があるから、仲間を集めやすいわね。外部からの資金調達もしやすい。ただし、自分が考える社会課題の解決に共感してくれる投資家を見つける事がとっても大切だけどね。
ありがとうございます!
非営利法人とは…?
そうそう、NPO法人で事業を展開している社会起業家の方もいますが、あれはどういう方が選択するんですか?
そうか、非営利法人についても説明しておくね。
非営利法人と聞くと、お金を稼いだらいけないと思っている人が多いんだけど、実はそんなことないの。
団体で得た利益を構成員で分配するのではなく、社会貢献活動のために利用する、というのが非営利法人だよ。
非営利法人には、財団法人や社会福祉法人、医療法人なんかも含まれるんだけど、とりあえず一般社団法人とNPO法人の2つをおさえておいて。
非営利法人の大きな特徴は、寄付を集めやすいところ。
それから、助成金や補助金を受けやすい。
NPOだと課税対象が収益事業にかかる所得のみという優遇もあるね。
ふむふむ。一般社団法人とNPO法人の違いってなんですか?
営利法人と比べれば、どちらも公益色が強いんだけど、NPOはより設立条件が厳しいの。
「特定非営利活動」っていう20の分野に活動が限定されているし、所轄庁の認証を得る必要がある。設立に時間もかかる。
その代わり、社会的信用や税制面の優遇といった点では、メリットが大きいね。
なるほど〜。ちなみに、非営利法人のデメリットって何なんでしょう?
資金調達をしようとしても、助成金や補助金の金額規模がそこまで大きくなかったり、条件が合わなかったりっていうケースが多いことかな。
公益性の高い事業にじっくり取り組むには適しているけれど、事業の規模をスピーディーに拡大したい場合には向いていないかもね。
社会起業家は、法人格をどう選ぶべき?
じゃあ、今までにでてきた代表的な法人の内容をおさらいしてみよう。
ちなみに、非営利法人を後から営利法人にすることはできないんだ。
営利法人同士では変更することも可能だけど、結局お金も手間もかかるから、最初にベストな法人格を選べると良いね。
法人格によって、かなり特徴があるのは分かったんですが、自分がどれを選べばいいのか、正直迷っちゃいますね。
そうだよね。
正直なところ、取り組む課題の分野や、解決の手段によって選択は変わってくるんだよね。
はじめ君は、誰の課題を、どうやって解決したい?
食糧廃棄はかなり深刻な問題ですし、発電による環境負荷も、できる限り早く解決する必要があると思ってます。食べることも電気を使うことも、一部の人だけじゃなくて、社会みんなの課題じゃないですか。
身近な課題だからこそ、より多くの人に現状を知ってもらって、行動を変えてもらうことが大事だと思っていて。
そのためにも、食品ロスを無くしながら発電もできるプロダクトを作って、飲食店一店舗に一台、いや、一家に一台っていうくらい普及させるのが理想です。
なるほど。そのアプローチや事業規模だと寄付や補助金だけでは、難しいかもしれないね。
株式で適切なタイミングでスピーディーに、ゆくゆくは大規模に資金調達をしながら、事業を成長させていくことで、より大きな社会的インパクトを生み出せるかもしれない。
それに、ビジネスという手法で取り組むことが、「社会課題を解決するための持続的な仕組みづくりを目指す」っていうメッセージにもなるかもね。
そうですよね〜。自分には株式会社が向いているんじゃないか、って気がしてきました。
それじゃあ今度は、株式会社の資金調達についても、もう少し深掘りしてみよう。
(参考文献)
内閣府 法人格の選び方
内閣府 NPOホームページ