社会起業家のための資金調達ガイド 〜株式会社編〜
法人格に「株式会社」を選んだ場合、その他の法人格よりも、資金調達の選択肢が広がります。では一体どのような選択肢があるのでしょうか? また、社会起業家が資金調達において気をつけるべきことは?
はじめ:「株式会社」を選んだら、どんな資金調達の選択肢があるの?
都内某大学農学部卒。バイオマス研究に取り組んでいる大学院生。
前回、先輩のあかりさんに「法人格」の選び方について学び、設立コストや手続きの手間だけでなく、事業の成長も考慮して選ぶ必要があることを知る。今回は、株式会社の具体的な資金調達について教えてもらう予定。
あかり:社会起業家×株式会社×資金調達の事情、教えてあげる!
教育機会の平等を目指し、オンライン教育スペースを運営する起業家。現在は2社目の起業に当たる。
1社目を廃業した経験もあり、自身の起業家としての経験を伝えることで、後輩起業家の成長を応援したいと考えている。実は1社目で資金調達を失敗した経験がある。
資金調達の選択肢と、その特徴を知る
株式会社は資金調達の選択肢が多いって話でしたが、具体的にはどんな方法があるんですか?
一般的な方法は「株式」「融資」「助成金・補助金」の3つだね。
資金調達の主な選択肢と一般的な特徴
株式での資金調達が可能なのは、株式会社だけなんですよね?
そう。株式は調達できる金額規模が大きいし、投資を行うプレイヤーも多いので、ほかの法人格と比べて、資金調達の機会が大きく広がるんだ。
社会起業家と補助金・助成金
補助金や助成金だけじゃ、事業を拡大するのは難しいんですか、やっぱり。
資金を潤沢に持ってたり、コストが小さかったりする事業の場合は、補助金や助成金での資金調達も可能かもしれないね。でも、必要な額に届かなかったり、条件に合うものが見つからなかったりすることも多いね。
たとえば、日本商工会議所の小規模事業者持続化補助金は、上限100万円だし、用途の指定もある。
ほかにも、CANPAN(※)というサイトに助成制度の一覧がまとまっているけど、非営利団体の向けが多くて、株式会社が応募できるのは限られているね。
※CANPAN:日本財団が提供する公益事業コミュニティサイト。
非営利団体向けのサイトであるため、参考程度にご利用ください。
なるほどなあ。補助金・助成金だけだと、先の調達の見通しが立てづらそうですね。
うん。ずっともらい続けられるものでもないから、頼るのにも限界があるんだよ。
そういう意味で言うと、最近、クラウドファンディングも活用されているね。同じように一時的な補強としては有効だけど、サービス内容が一般受けしないと難しい。事業内容によって、向き不向きが分かれる方法だよね。
BtoBのプロダクトだとなかなか集まらないと聞いたことがあります。
でも、BtoCの領域で社会課題の解決への道筋が伝えられれば、手軽にチャレンジできる方法でいいですよね。
社会起業家と融資
じゃあ、融資はどうなんですか?
融資でたくさん借りちゃうと、事業拡大したいと思ったときに、返済が足を引っ張る場合もあるよ。株主への利益分配より融資返済を優先しなきゃいけないから。
融資のいいところは、審査が通れば必要なタイミングで調達できること。それと借りた金額が大きくても、経営権に影響がないところかな。
ただ、やっぱり一般的な銀行の場合は「確実に返済できるかどうか」を重視する傾向が強いから、まだ実績のないスタートアップは借りにくいよね。
確実な返済の約束なんて今の僕にできるのかなあ。いくらずつ返せるか見えない。。。
そうだよね。はじめ君のように、「社会的インパクトの検証を着実に行いたい会社」「課題を解決してもそれが必ずしも利益にならなかったり、お金を払うことが難しい人を事業の対象にしていたりする会社」からしたら、ビジネスモデルを固めていつから収益化できるか、創業時に見込みを立てることってかなりハードルが高いと思う。
融資の線は諦めるしかないかなあ。
あ! でも「政策金融公庫」からの融資は、チャレンジしてもいいかも。
日本政策金融公庫
一般の金融機関が行う金融を補完することを目的とした政策金融機関。創業企業支援、中小企業支援などを行う。
創業融資の場合、基本的には無担保・無保証で融資を受けることが可能。債務者は会社となり、代表取締役は含まれないため、代表者個人の資産を守ることができる。
また、この融資実績によって事業の信頼性も高まるため、信用金庫や信用組合、地方銀行、メガバンクからの融資につなげることもできる。
創業時支援|日本政策金融公庫
たとえば、制度の一つ「ソーシャルビジネス支援資金」の場合、「社会的課題の解決を目的とする事業」に対して、必要な設備資金や運転資金を、最大7,200万円まで融資してくれるっていう内容になってる。
他にも、新しく事業を始めたり、事業を開始して間もない人に無担保・無保証人で最大3,000万円で融資してくれるという「新創業融資制度」なんかがあるね。
この辺は、社会起業家にも親和性が高いじゃないかな。
担保や保証人がなくても、融資を受けることができるんですか⁉︎
うん。もちろん審査はあるし、条件によって利率や融資可能な金額も変わってくるけど。
他にも、各地で色んな補助金・融資があるから、中小企業基盤整備機構が運営しているJ-Net21とかで一回調べてみるといいかもね。
社会起業家と株式発行
僕は、プロダクトでの事業を考えているので、将来、生産を拡大する時に大規模な資金調達が必要になりそう…。
工場を持つって、めっちゃお金かかりそうですよね〜!
それはかかるね(笑)
株式発行による調達、エクイティファイナンスも検討だね。
株式発行なら、投資家から規模の大きい資金を集めることができるよ。
なるほど。ここで法人格で「株式会社」を選ぶことが活きてくるんですね。
そうだね。ただ、株式発行にも、いろいろ注意しなきゃいけないことはあるよ。例えば、どんな投資家から投資を受けるか、といったことね。
ベンチャーキャピタル、VCの場合、機関投資家や企業などから資金を集めて、それを預かって運用している。
VCは彼らに対して、約束の期間内に、預かった資金による投資で大きなリターンを得て還元する義務があるってわけ。
だから、どうしても短期間での成長を求められることが多いの。
なるほど!そんな背景があるのか。
はじめ君の場合は、収益だけじゃなく社会的インパクトの最大化も軸にして進めていきたいんだよね。
収益化に対するスピード感に違いがあると、VCからのプレッシャーが重く感じるかも。はじめ君の起業の目的から外れることを求められる可能性もある。
だから、はじめ君の事業が目指していることを理解して、そこを応援してくれる投資家と出会うことがとっても大事。
そうですね。いろんな投資家と話をしないといけないなあ。
あと、もう一つ。
株を手放しすぎると経営権を奪われちゃうこともあるから、注意してね。
実はさ。私も最初の会社を立ち上げたときは、「資金を集めないと」って、積極的に株式を発行しちゃったんだけど、ここ、本当に気をつけないといけないところだったの。
私たちのミッションや社会的インパクトにあまり理解をしてくれない人が
有力株主になっちゃって、その人の承認がないと物事を決められなくって、身動きが取れず大変だった〜。
株を発行しちゃったら後戻りできないから、「何株発行するか」とか「誰に発行するか」とかって、ほんと、慎重に進める必要があるの。
うわー、事前に聞いておいてよかったです。
まあ、色んな投資家がいるから、中小企業基盤整備機構のファンド検索機能を活用したり、アクセラで仲間になった起業家と情報交換したりするといいよ。
社会起業家ならではの資金調達とは?
利益も出しつつ社会課題も解決するってやっぱり難しいんですね…。
プロダクトができあがれば、その販売で収益を出していけるし、収益が拡大していくってことは、より多くの人に使ってもらえて、社会課題の解決に近づいていく。
そんなビジョンが描けているんですけどね…。
そこまでの道のりをどう乗り越えるかだよね、本当。
私の友達の起業家は、そのために「株式会社」と「NPO」の2つを展開してるよ。
「株式会社」では大規模な資金調達で素早く事業を拡大して収益を出す「NPO」で収益性が見込めない分野や領域の課題解決に取り組んでいるの。
え! みんなめちゃくちゃ苦労しているんだなあ。
海外では社会的企業の法人格が整備されている国もあって、資金調達もしやすかったりするの。
日本でも将来的にできるといいよね。
それは本当に実現して欲しいですね。
社会起業家の端くれとしては、そういう気運を高めていかないといけないなあ。
とはいえ、当面の事業資金のことも考えていかないと。
まずは、助成金や補助金の獲得と、政策金融公庫からの融資を検討しようかな。
そうだね。
あと、はじめ君には微妙かもだけど、事業内容によっては地域のコミュニティ財団もありかも。
比較的小額だけど、地域課題解決に対して資金提供をしているところが多いし、社会的インパクトを狙った事業に理解があると思うよ。
コミュニティ財団
市民により構成される役員会が運営する公共的な社会貢献機関。個人、企業、団体その他から寄付や遺贈された多数の個別基金を管理する。地域において、複雑かつ多様な課題の解決に取り組む組織に対して、資金提供などの支援を行う。本来の支援対象は非営利組織に限定されるが、要件を満たした社会起業家に対しての支援を行うこともある。
へええ、そういうところもあるのか。自分の地域の財団を探してみたいと思います。
アクセラレータープログラムを検討していたときは、VCか、事業会社から投資を受ける形が一般的なのかな? と思っていたんですよね。意外といろんな選択肢がありますね。
VCや事業会社も、目指す方向性が合えば、とっても心強いよね。
ただ、社会起業家の場合、収益だけでなく、「社会的インパクト」も追求することを投資家に理解してもらう必要がある。
国内でも、「インパクト投資家」って言って社会的インパクトを投資判断に入れている投資家も増えているの。
そういうことも理解してくれる投資家が増えるといいよね。
インパクト投資については、また今度話しましょ。
参考文献
・一般社団法人KIBOW「社会課題を解決する起業家のための資金調達ガイド」