レポート

「インパクト投資」って何? 専門家に聞いてみた!

利益を得ることだけではなく、社会課題解決を目指してビジネスを立ち上げる社会起業家たち。しかし、資金調達に苦労する社会起業家は少なくありません。

そんな社会起業家を、資金や知識・人脈で支える「インパクト投資家」が増えつつあります。「インパクト投資」は、海外ではすでに市場の成長期にありますが、日本でもプレーヤーが増え始めています。

今回は、インパクト投資とはどのような考え方で行われる投資なのか、そしてインパクト投資家と出会うにはどうしたらいいのかなどを掘り下げます。


はじめ
はじめ

はじめ:え、「社会的インパクト」を評価してくれる資金調達方法があるの?
都内某大学農学部卒。バイオマス研究に取り組んでいる大学院生。
先輩起業家のあかりに「アクセラレーター」や「法人化」「株式会社の資金調達」について学びながら、社会起業家への道を進んでいる。事業拡大期の資金調達について検討中。「インパクト投資」について詳しく知りたいと考えている。

あかり
あかり

あかり:「インパクト投資」によって、教育格差の課題解決に注力していきたい。
教育機会の平等を目指し、オンライン教育スペースを運営する起業家。現在は2社目の起業に当たる。
1社目を廃業した経験もあり、自身の起業家としての経験を伝えることで、後輩起業家の成長を応援したいと考えている。現在、インパクト投資による資金調達を検討中。インパクト投資家のパートナーシップを得ることで、教育格差の課題解決にさらに注力したいと考えている。


インパクト投資って何?

はじめ
はじめ

株式会社の資金調達について教えてもらったときに、
あかりさんが「インパクト投資家が増えてる」って話してたと思うんですけど…。
インパクト投資ってなんですか。

あかり
あかり

ああ! その話をしないとね。

そもそも「インパクト投資って何?」って話だけど、
Global Impact Investing Network(以下 GIIN ※1)は、こんな風に定義しているよ。

インパクト投資とは

財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的及び環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動のこと。

「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2020年度調査」より引用

※1 GIIN
インパクト投資の拡大と成果向上を目的として2009年に設立された団体。
インパクト投資に関する知見共有やインパクト投資家のネットワーク構築を担う。

あかり
あかり

今までの一般的な投資は、「リスク(利益の振れ幅)」と「リターン(利益の平均値)」の2軸で企業の価値を評価するんだけど、インパクト投資は、それに「社会的・環境的インパクト」の軸が加わるの。「企業の事業や活動によって、社会や環境にどんな良い変化や影響を生み出すか」っていう点も評価するんだね。

はじめ
はじめ

名前は聞いたことがあるけど、詳しく知りませんでした。
「社会的インパクト」を考慮してくれるって、めちゃくちゃ嬉しくないですか⁉︎

あかり
あかり

そうだよね! 私やはじめ君みたいに、「収益だけじゃなく社会的インパクトの最大化も軸にして事業を成長させていきたい」っていう社会起業家には、相性が良い投資なんじゃないかな。
海外では、かなり市場が育ってきているけれど、日本では、まだ認知度が低いと思う。

はじめ
はじめ

でも「インパクト」って、”見えない”じゃないですか。
収益とかなら明確だけど、何を根拠に投資を得られるのか、ちょっとわかりにくいですよね…。
最近、「ESG投資」もよく話題に上がるけど、それと似たようなものなのかな。

あかり
あかり

あー、私も突っ込んだところは、詳しく説明できないんだよね…。

実は、前にアクセラでお会いしたインパクト投資家の方がいてさ。
インパクト投資について教えてもらいつつ、資金調達に向けて話を進めているの。
明日、時間をもらっているから、一緒に聞いてみる? 紹介するよ!

はじめ
はじめ

わー‼︎ ぜひお願いしたいです!

「インパクト投資の4要素」とは

(翌日)

はじめ
はじめ

加藤さん、はじめまして! あかりさんの後輩のはじめです。
今日は一緒にインパクト投資について勉強させていただきたいと思います。

加藤

はじめまして!
インパクト投資は、日本ではやっと成長段階に入ってきた投資で、いろんな考えをお持ちの方がいます。あくまで私の意見となる点もありますが、疑問にお答えできれば嬉しいです。

あかり
あかり

加藤さん、ありがとうございます! 
私もまだまだ、インパクト投資の実態が掴めていないんです。
目に見えないインパクトをどうやって投資の判断材料にするのかとか、いろいろ教えてください。

加藤

そうですね。まずは「インパクト投資の4要素」を、しっかりとご説明した方がいいかもしれません。

GIINは、次の4つの要素を満たしたものが「インパクト投資」と定義しています。
① 意図があること
② 財務リターンがあること
③ 広範なアセットクラスを含むこと
④ インパクトを測定すること
 です。

はじめ
はじめ

ん? 意図? アセットクラス? すみません、もうわからなくなってきました…。

加藤

確かにわかりづらいかもしれませんね。順に一つずつご説明しましょう。

①意図があること

加藤

まず、「意図があること」。ここは誤解されやすいのですが、
「投資家」自身が社会的・環境的インパクトを出す意図を持って投資を行う、という意味です。

はじめ
はじめ

あれ。「企業側」の意図を汲んで投資を行うっていう意味ではないんですね?

加藤

企業側の意図もとても重視します。ただ、前提はあくまで投資家側が「●●の社会課題を解決したい」という意図を持っていること。ここは誤解されやすいところでもあるのですが、非常に大事なところです。

貧困、災害、教育、環境…世界にも日本にもさまざまな社会課題がありますが、インパクト投資家によって、優先して解決したい課題は異なります。

例えば、ある投資家が、貧困問題の解決には幼少期から生涯にわたっての教育が特に重要だと考え、自分たちは「教育」に特化した投資ファンドを始めようと思い立ちます。そしてこの課題に共感した出資者からお金を集め、教育事業を行う企業を探して投資し、支援する。これが「投資側が意図を持つ」という意味です。

あかり
あかり

じゃあ、社会起業家がインパクト投資家から資金調達を得たい場合、
自分と同じ意図を持ったインパクト投資家に相談することが大事ですね。

加藤

その通りです。インパクト投資家は「財務リターン」と「インパクト」両方の目標が合ってから初めて投資します。起業家からすれば、相談前にマッチングする投資家を絞りやすいとも言えます。インパクト投資家の意図や目標は、そのウェブサイトに書かれていることも多いです。また、実際にどのような企業に投資してきたかも参考になるかもしれません。

日本ではインパクト投資家はまだまだ無数にいるわけではないですから、まずはできる限り多くのインパクト投資家と会い、話を聞いてみても良いんじゃないかな…と思います。

②財務的リターンを目指すこと

加藤

次に「財務リターンを目指すこと」。

インパクト投資は寄付ではありません。出資者に対して「何年後にどのくらいのリターンを返すか」を約束してお金を集めていますから、共通して財務リターンを目指します。ただ、そのリターンの割合が一般的なVCや上場株ファンド並みなのか、インパクト面でのリターンがあれば市場の水準より低くても良いのかは、投資家によってで判断が異なります。

他の投資や寄付との関係性は、下の図がわかりやすいんじゃないかと思います。

インパクト投資の特徴と位置づけ

(出典)「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」(第2章 p.12)
はじめ
はじめ

そうそう、ESG投資とインパクト投資は何が違うんだろう? って思ってたんです。

加藤

共通する考え方は持っていますが、現状では目的が異なるものと言えますね。
ESG投資は、企業が自ら生み出す「環境」「社会」「ガバナンス」のリスクを削減することは長期的な企業価値向上に繋がること、ひいてはそれが財務リターンの向上に繋がることに着目して行う投資です。リスクの削減とは、例えば業界競合比でCO2をどこまで削減しているかとか、バリューチェーンの労働者に不誠実な対応をしていないとかですね。

対して、インパクト投資は「投資を通じて社会的・環境的にポジティブなインパクトを生み出したい」という意図を、投資家が明確に持って行う投資です。その方向性が異なると思います。

はじめ
はじめ

ありがとうございます。頭の整理ができました。

③広範なアセットクラスを含むこと

加藤

ここも実は誤解を招きやすいところです。「インパクト投資」って、投資判断基準が異なるVCのようなものだと捉えている方が多いのですが、実は、上場株や融資、保険、リースなど、あらゆる金融商品が「インパクト投資」であり得るんです。「アセットクラス」という表現が、専門用語でわかりづらいかもしれませんね。

アセットクラス

投資対象となる各金融資産(アセット)の種類や分類のことを指す。例えば、国内株式や外国株式、国債や社債、ほか通貨や不動産、貴金属など。

あかり
あかり

私たちスタートアップに対してのインパクト投資は、主に「融資」や「株式」になると思うんですが、インパクト投資家にとってはスタートアップだけが投資先ではないのですね?

加藤

はい。「インパクト投資」では、財務的リターンを求める様々な金融資産が投資対象になり得ます。スタートアップに対する「非上場株式」だけではありません。

「上場株式」で大企業を対象としていたり、政府系金融機関が国に対して投資・融資を行なったりなど、さまざまなインパクト投資の形があります。

あかり
あかり

なるほど! インパクト投資のプレイヤー一覧がありますが、載っている機関全てがスタートアップを対象にしているわけではないのですね。資金調達の相談をしたいときは、そこも確認する必要がありますね。

加藤

そうですね。スタートアップに投資するインパクト投資家は増え始めています。共鳴できる投資家に巡り合えるとよいですね。

④インパクトを測定すること

加藤

最後に「インパクトを測定すること」ですね。
インパクト投資は、インパクトを生み出すことを目的としている以上、それを出せたかどうかを定性的・定量的にきちんと測り、可視化していく必要があります。

あかり
あかり

よく「ロジックモデル」とか「セオリーオブチェンジ」というもので可視化すると聞くのですが。

加藤

それは成果を測る手前の段階で行う、可視化のツールですね。インパクトを測るためには、どこに成果が現れ、どのように測るべきなのかを決める必要があります。ですから、インパクトをどうやって戦略的に生み出すのか、つまり事業とインパクトの因果関係を、ロジックモデルやセオリーオブチェンジの形で整理して可視化するのです。

さらに、「提供する商品が●●まで行き渡った段階でアンケートをとり、●●という回答が得られたら、事業は社会の考え方の変化に貢献していると言えるのではないか」などと仮説を立てて、投資家と起業家の間で測定する時点と内容を決めます。

あかり
あかり

なるほど、そこは投資家が一緒に考えてくれるんですね。心強い。

加藤

そうですね。最初に「インパクトの可視化をしませんか?」と持ち掛けるのは投資家からのことも多いです。起業家の思いを伺いながら具体的なやり方を一緒に考えていくことで、起業家自体がインパクトを測ることの効果を実感し、最終的には起業家自身がオーナーシップをもってインパクト測定を行い、経営のPDCAサイクルのなかで日常的に活用していけるようになることを目指しています。

インパクト投資家と会うにはどうしたらいいの?

はじめ
はじめ

いざ、資金調達についてインパクト投資家に相談したいな、と思った場合、
どうしたらいいでしょうか。

加藤

投資家たちが集まるイベントに参加する、既にインパクト投資を受けた起業家に聞いてみるなど、出会う方法はいろいろあると思います。

ただ、あくまで個人的な意見ですが、イベントなどで偶然会えることを期待するよりは、自分の意図と合いそうなインパクト投資家をインターネットなどで地道に調べ、問い合わせをする主体的なアクションが、意外に有効なのではないかと考えています。資金調達の相談こそ、投資家にパートナーになってもらうために事業を売り込む営業だと思います。

はじめ
はじめ

なるほど、飛び込み営業ですね!

加藤

これまでの一般的な投資では、インパクトが注目されることは稀でした。

インパクト投資家は「インパクトを生みたい」という点から相談できる存在です。
まずそのインパクトを生み出すための仮説を準備して、「こういう仮説でインパクトを出すために起業をしたい」という相談をすれば、投資を受ける前段階からフィードバックをもらえたり、指標設定の相談をしたりもできるでしょう。

インパクト投資家の存在が、社会起業家の方にもっと認知されて欲しいなと思います。

あかり
あかり

加藤さん、私も改めて勉強になりました。ありがとうございます。
またいろいろご相談させてください。

 


加藤 有也氏 SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)事業本部 インパクト・オフィサー

加藤 有也

SIIF(一般財団法人社会変革推進財団)事業本部 インパクト・オフィサー。総合出版社にて海外版権事業や国内外関連会社の設立・経営企画に従事したのち、CVCの設立・運営およびベンチャー企業との資本業務提携に携わる。2019年4月よりSIIFに参画。
インパクト投資家になったきっかけは、出版社時代に通った経営大学院での恩師やクラスメイトとの出会い。インパクト投資は、魅力的な起業家から日々学び、社会を変え得るビジネス作りを支援しながら、思いを共にするインパクト投資家たちと共に業界作りにも貢献できる、大きな刺激と責任がある仕事だと実感している。

https://www.siif.or.jp


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